case.5 宮脇咲良
09
「んん・・・」

ベッドの上。目が覚めた佑唯は、ゆっくりと周りを見渡した。今夜泊まる予定だった宿とは全然違って、何やら薬品の匂いもする。
ようやく視界が良くなってきたため、起き上がって周りを見ると、ここは病室であった。


「あれ、なんで私・・・ここって、間違いなく病院だよね・・・」

「起きてくれたね、やっと」


そこにいたのはコートを羽織ったスーツの男。渉かと思ったが、残念ながら渉ではなかった。


「急にすみません、今泉佑唯さん。自分は警視庁で警部をしてます、高橋淳一と言います」

「警察・・・」

「昨日の事は覚えていますか?」

「昨日?・・・うーん、夕方に変な男の人に誘拐された・・・そこで、記憶が飛んでる感じです」

「・・・なるほど。それでは、昨夜の事件と、ご一緒していた男の事は全くわからない、と?」

「・・・事件て、何があったんですか、あ!そうだ、一緒と言えば白兎夜さん!そうだ、白兎夜さんはどこにいるんですか!」

「白兎夜?それは、この男の事で間違いないでしょうか」


写真を見せられ、確認すると、確かにそれは渉だった。



「この人です!今どこにいるんですか?」

「うーん・・・それが分かっていればいいんだけども・・・」

「・・・どういう意味ですか。それにさっき、事件って言ってましたよね」

「・・・これは事件の説明からしないと進まないか」


頭を掻いた後、高橋警部は“昨夜の事件”と“渉の行方”について話をし始めた。




「まず、昨日の夕方、あなたは神崎組という組に誘拐されたんです。神崎組は元々、別の金品強奪事件で警視庁が追っていたから場所はすぐに見当がつきました。ですが、神崎組があなたを狙っていた理由は、あなたを人質にこの男を呼び寄せる目的があったからです」

「どういう関係があるんですか?」

「あなたが白兎夜渉と呼ぶこの男の経歴を調べたところ、神崎組以上の犯罪歴がありました。その中で、神崎組が絡む事件がありまして、彼を憎んでいたと考えられます」

「白兎夜さんが犯罪者?嘘じゃないんですか?」

「残念ながら、本当の話です」

「嘘、白兎夜さんが・・・?」

「・・・その犯罪については一旦置いておきましょう。神崎はあなたが一緒にいる事を知っていたために、人質にとるという方法をとったようです。そして午後10時25分、神崎は彼を殺そうとしたのですが、彼はその時、神崎組の手として差し向けられていた小嶋陽菜という女から奪ったナイフで部下の男をいきなり殺したんです」

「・・・そ、そんな事を・・・」

「・・・焦った神崎はその場から逃げ、残った部下はというと・・・」

「・・・というと・・・どうしたんですか?」

「・・・白兎夜渉によって、殺されていました」


「え!・・・」


なんと渉は殺人を犯していた。正当防衛にしてもやり過ぎである。


「ただ、それだけではないんです。逃げた神崎なんですが・・・」

「・・・白兎夜さんが、殺したんですか?」

「先に結果から言うと・・・現場から700mほど離れた地点にある建物の裏に、神崎の死体がありました。刃物で刺され、出血多量によって失血死していました」

「・・・白兎夜さん・・・!」

「・・・ただ、殺したのかはわかりません。白兎夜が殺人に使ったナイフと、神崎の命を奪った刃物は違うものでした」

「そう、ですか・・・」


「警察としては、白兎夜渉を逮捕する事を決めています。それに加え、あの場にいた目撃者の宮脇咲良と、神崎組の組員だった小嶋陽菜という二人の女性を捜索しなければいけません。その二人の事は、今泉さんはご存じでしょうか」

「い、いえ、全く知りません」

「わかりました・・・辛いとは思いますが、白兎夜渉は殺人を犯していますので、正しい罰を受けなければなりません。今泉さんはどこも異常はないようなので、今日か明日にはご実家の方までお送りします」

「え、待ってください!白兎夜さんとはどうなるんですか!?」


「判決が下るまで、会うことは出来ないと思ってください」

「そんな!・・・・」


佑唯は一気に絶望に叩き落とされてしまった。突然人質として誘拐されたあげく、目の前で渉によって血の海に沈められる男達。そして渉の、過去の犯罪歴。今日まで築いてきた渉という男との信頼は何だったのだろうか。
彼が戻ってきても、今までみたいに笑っていられるのだろうか。
佑唯は涙も出ないほどの絶望感にうちひしがれていた。

「・・・それでは、これで失礼します」

「・・・あの、待ってください」

「?・・・まだ、何か?」

「あの、白兎夜さんの、過去の犯罪って話、ありましたよね・・・」

「はい、ありましたね」

「その犯罪って、何なんですか。教えてください・・・もう私、今の話だけで、あの人の事をどう見ていいか、わからなくなって・・・」

「・・・本当は、話さない方がいいと思うんですが・・・聞きますか」

「教えてください」

「わかりました。ただし聞く以上、その後の判断、行動は自己責任でお願いします」


渉の過去。佑唯は遂に触れるところへと触れるのだった。

■筆者メッセージ
本章は終了です。
渉くんと咲良たんの絡みはありませんでしたが、あの夜のうちに小嶋陽菜と共に姿を眩ましました。
もしかしたら今ごろ?

次章は渉くんの過去が明らかに。
そして実はリクエストのあったメンバーを書きます。
壮流 ( 2017/05/17(水) 02:14 )