04
堀未央奈という女性に連れられ、ビルの間に入った渉。よく見ると、あの宮脇咲良にとても似た顔をしていた。
神妙な顔つきでこちらを見る未央奈は、怯えたように声を発した。
「あの、いきなりですけど・・・聞いても、いいですか」
「なんでしょう・・・」
「あの人達が言ってた、血女・・・あなたは信じますか」
「血女・・・うーん、自分にはまだ何がなんだか分かりません。ただ、今あなたの事を見たら、血女と言われている宮脇咲良という女性にそっくりだな、とは・・・」
「・・・そう。そっくりなんです。そのせいで、私は普通の生活が出来なくなりました」
「間違われるんですね」
「・・・仕事も辞め、家も移り、陰に身を潜めて暮らさなければならないのはなぜなんでしょうか・・・。でも、それだけならまだいいんです・・・」
「え?・・・」
「あの女は、遂に私から一番大切なものを奪った・・・そして私はどうなったと思います?」
「・・・信じて、もらえず?」
「はい。ほとんどの人に信じてもらえず・・・勘違いした人達が、私を暗闇に追いやったんです。もうこんなの嫌・・・とち狂ってしまいそう」
血女に何を奪われたのかは気になるが、それよりも気になるのは、さっきから彼女がやたらと近い事。
すすり泣くのは演技ではないようだが、初めて会ったばかりの男の膝に顔を埋めて泣くのか?という状況。渉はとりあえず彼女の好きにさせるが、すると突然、未央奈はゴソゴソと何かをまさぐりだした。
「どうしました?」
「・・・いえ」
その一方、佑唯はストリートライブの場所に目星をつけ、宿へ戻ろうとする道中であった。
歩きながら、佑唯は今日の渉を振り返っていた。どうも最近の渉は情緒不安定であり、自分にまで手を出そうとしてきた。長く旅路を共にしてきたが、そろそろ佑唯にはある想いが芽生え始めていた。
ー渉の過去、である。
「あっ!」
と、その時、佑唯の先にいた女性が突然、下腹部を押さえてしゃがみこんだ。佑唯は思わず駆け寄り、女性に声をかけた。
「大丈夫ですか!」
「あ、うぅ、大丈夫です・・・」
痛がっているというよりは、むず痒そうにして体を揺らしている。
発作でも起こしたのか。佑唯は手を差し出すが、女性はその手を取ろうとする前に体をびくっと振るわせ、ゆっくりと立ち上がった。
「はぁ、すみません、大丈夫です」
「え、大丈夫なんですか」
「はい。いつもの事なんで」
「あんちゃん!」
いつも下腹部を押さえ、体を振るわせるのか。明らかに何かあるだろ、そう言いたかったが、彼氏と思われる男がやってきた。若いイケメンの男だが、よく見ると女性の薬指には指輪が。じゃあ男の方は?と左手を見ると、薬指に指輪がついている。
二人は新婚なのか。
その後ろ姿を見ていると、佑唯にはあるイメージが浮かぶ。
(佑唯、今日も可愛いよ)
(えー、もう、お世辞ばっかりぃ)
渉があんなダークな人間じゃなければ。いつの間にか、渉に恋心すら抱き始めていた自分の心に、佑唯は寂しさを覚えた。