case.5 宮脇咲良
03
宿を見つけ、二人は部屋に入るが、渉はすぐに出ていってしまった。
どうも以前の事を引き摺っているからか、戻る時間も“頑張ってください”も、一言も言わなかった。
佑唯は寂しくなり、ベッドから動かずに寝てしまった。
まだストリートライブの場所も見つかっていないのに。


しかし渉はそんな事は露知らず、街を歩いていた。携帯の画面には、以前、玲香の家で撮った「ハヤテ」の絵が写っている。
なぜかこの絵を見ていると、心が落ち着くのだ。
渉の中にはどんな本性が眠っておりこの絵にはどんな力があるのか。

旅の途中でその理由も知れればいいと、今は考えずに携帯をしまった。
と、しかし突然。


「きゃあああ!」


40mほど先にいた女性が悲鳴をあげて腰を抜かしていた。
人だかりが出来る中、渉もそこに向かうと、それを見て思わず口を押さえた。


「こ、これは・・・」


そこには血の海に倒れる男性が。
腰を抜かしていた女性を立たせて、渉は話を聞いた。


「大丈夫ですか?この男性は一体」

「し、知らない・・・この人・・・いきなり上から落ちてきて・・・」

「上から!?」


まさか自殺か。目の前のビルを見上げると、相当な高さがある。これは確実に自殺できるのだが、渉は自殺にしては不審に思っていた。
この死体には、なんと10箇所以上の刺し傷がある。
自殺にしては多すぎるため、誰かが刺して殺し、死体を捨てたものだと考えた。


「これは間違いねぇよ、血女の仕業だ!」

「そ、そうだよ、血女の仕業だ!」

(血女?)


突然出てきた“血女”という言葉。
野次馬に話を聞くと、血女というのは、この街で有名な殺人鬼らしい。4年ほど前から、この街中で起こる殺人の7割が血女の仕業だという。
そしてその血女として取り上げられているのは、宮脇咲良という女性。
この名前に、渉は記憶があった。
至るところに張られた張り紙には、この女を追っているという名目で、宮脇咲良という女性が名指しされていた。
野次馬から離れると、渉はこの事を佑唯に伝え、今夜はストリートライブを控えるように言いつけた。
こんな危険な場でストリートライブなどさせられない。
早いうちに帰ろうとした渉だが、そこに声をかける女性がいた。



「あの、そこの方、ちょっとよろしいでしょうか」

「え?あ、はい」


短いストレートヘアの印象的な女性だった。
スカートも短く、渉の身長とは25cmほどの差がある女性だった。

「あの、失礼ですがどちら様でしょう」


「堀未央奈と言います」

壮流 ( 2017/04/09(日) 23:04 )