06
玲香の自宅で過ごして三時間。渉はずっと近くにいる玲香に欲情する事なく、落ち着いた雰囲気で話をしていた。
魅力がないわけではない。佑唯のように突如、人が変わったような、あの欲情が起きないだけである。
このまま何も起きなければ、今朝のようにはならないだろうと安心してくつろいでいたその時、玲香は渉の隣に座った。
「このまま旅に行っちゃうの、嫌です」
「・・・終わったわけじゃありませんからねぇ」
「遠距離恋愛は嫌ですから、近くにいてほしいです。ダメですか?」
「へへへ・・・お気持ちは嬉しいですが、それは無理ですねぇ」
「あの子の方が、大事なんですか」
「共に旅をしたいとついてきてくれた方です。大事に決まってますよ」
「そう、なんですか・・・」
残念がる玲香の頭を撫でながら渉は部屋を見渡した。あまり内に秘めた感情を見破られないようにと、これで何回見渡したか分からないほど。
しかし、その何回もの物色で気付いたものがあった。
玲香の部屋には絵が沢山ある。その中に、どう考えても不釣り合いな絵があった。
ずっと気になって仕方のない渉は、雰囲気と流れを変えるために絵について話を振った。
「玲香さん、その、さっきから気になっていたんですが、あそこにある絵は何なんでしょう」
「?・・・ああ、これですか」
「何でしょう、神様でも描いたんでしょうか。裸の男女が・・・」
「これは、実在したとされている、伝説の男・ハヤテです」
「伝説の?」
「彼に惚れた女は、必ず子宝に恵まれるっていう、凄い伝説を持つ男なんです。私はこの絵を願掛けとして飾っているんですよ」
神頼みの割にはリアリティーの強い願掛けである。果たしてこんな男が存在するのだろうか。
この絵を観ていると、渉は心の底から何かが沸いてきていた。
(彼は・・・子宝の象徴・・・女は誰でも・・・)
「ぐっ!?」
この絵がきっかけだった。渉はまた突然、欲情していた。目が血走り、その視線は隣にいる玲香に向いた。
(だ、ダメだ!やめろ!・・・)
「白兎夜さん?」
そしてこちらは佑唯。外を散歩していた休憩がてら、誰かと電話をしていた。
「大丈夫、何とかしてみせるから!自信ありありだもん」
家族なのか、友人なのか、突然旅に出た佑唯を心配したのだろう。佑唯は自信に満ちた表情で答え、電話を切った。
「さてと、もうそろそろ発声くらいしとこうかな。にしても、白兎夜さんどうしたのかな?まだ帰ってこないな・・・」
渉が今どうなっているのか知るよしもない佑唯は、気分よく宿へと帰っていった。