case.4 桜井玲香
03
時刻は夜の11時。宿から外に出て、何処へともなく歩いていた渉。空には満月が見えており、渉は時折その満月を見つめていた。
ウサギが餅をつく様が満月に写っているわけではないが、渉はその満月を見る度にニヤリと笑っていた。
しばらくして公園に着き、ベンチに座ると、渉は真っ直ぐ満月を見た。


月兎の伝説はインド神話が由来とされている。
その昔、天竺に狐、猿、兎の三匹の動物がいた。彼らは
「なぜ自分達は獣なのだろうか」
「前世で悪事をはたらいたからだ」

という答えが導き出され、三匹は来世のため、世に役立つことをしようと決めたのだ。その姿を見た帝釈天は、三匹の前に現れて、腹が減ったと言って三匹を試した。
猿と狐は木の実や小動物などを持ってきたが、兎は何もできずにオロオロするばかり。
「必ず食べ物を持ってくるから火を焚いて待っていろ」と言うものの、結局食べ物は持ってくる事は出来なかった。
そして兎がとった行動はというと、「食べ物をとってこれなくてごめんなさい。お詫びに私をお食べください」と、自ら火に飛び込んだのだ。
この兎の行動に、帝釈天は
「兎には可哀想なことをさせてしまった」と、その兎の皮を剥ぎ、月に向けて奉ると、その魂が月で新たな命となって蘇った、という結末である。


「・・・美味しい」


コンビニで買った雪見だいふくを食べながら、満月の下、旅を振り返る。
兎の餅つきの由来は、満月を意味する“望月(もちづき)”から転じたのが由来とされている。
自分は堕ちた人間。堕ちるに至るまで、自分の生きがいとは何だったのか。佑唯と出会うまで、いくつもの街を訪れ、幾多の人と出会った。
そして、幾多の女性を本能のままに孕ませた。
生物としてのオスの本能はしっかり残っているのだが、それ以外に残っているものは無い。
この旅に終わりはくるのだろうか。そして旅を終えた時、佑唯はどうするのだろうか。
その内、渉は眠くなってきたため、宿へ戻ろうと来た道を歩く。するとその時、渉の携帯電話に着信が。
知らない番号だったが、渉は出た。


「もしもし?」

「・・・もしもし、白兎夜渉さん」

壮流 ( 2017/02/11(土) 02:08 )