02
「その子を放しなさい」
男は威嚇しようとするが、女性の目があまりにも殺気だっているため、後ずさりをしてしまった。その隙に佑唯は男の足を思いきり踏んだ。
「ぐっ!」
「いやっ!」
「待て、ぐふぅ!?」
足の痛みに怯んだ男の顔に、女性は上段蹴りを打ち込んだ。理解できない状況に怯み、男は慌てて逃げていく。女性は佑唯に顔を向けると、先程の顔とは一転して柔和な笑顔を見せた。
「大丈夫?この辺は暗くなったらああいう男が多いのよ、早めに家に帰りなさい」
「あ、あの、自分は宿に・・・」
「宿?そう、そしたらそこまで連れてってあげる」
「ありがとうございます・・・」
突然現れた女性は白石麻衣と名乗った。ポニーテールに結った長髪と、暗い中でも分かる綺麗な肌が印象的である。年齢は20代とみたが、あの蹴りはとてつもない威力だった。
実はとても気の強い女性なのかもしれない。
「この町の子?」
「い、いえ、旅をしてて、この町に来たんです」
「旅?一人?」
「いえ、一緒に旅をしてる人がいるんですけど・・・まだ追い付かないのかな」
「て事は、戻ったら会える感じね。じゃ一度戻ろう?」
「あ、はい・・・」
麻衣と佑唯が来た道を戻る一方、一向に追い付かない渉は何をしているのか。
その理由はというと。
「・・・あまりくっつかれない方がよろしいかと思いますが」
「だって、この町で、こんなイケメンの方を見たことなかったですから・・・」
「どこもイケメンではありません、それに自分、早く宿に戻らないといけないので」
「も、もう少しだけ、いいですか」
(参りましたねぇ、これでは佑唯さんに怒られますねぇ)
桜井玲香という女性が、渉の腕を掴んで離さなかった。どうやらコンビニでの買い物はすぐに終わったのだが、彼女が渉を見て一目惚れをしたらしい。暗いためによくわからなかったが、顔は真っ赤だった。
「じゃ、宿までご一緒に・・・」
「参りましたねぇ、ん?」
渉の行く先から、戻ってきた佑唯と麻衣がやってきた。
「あー!白兎夜さん、なんですか、その人!」
「コンビニで買い物をした後から、この方に絡まれて動けなくて困っていましてねぇ。丁度良かったです。ところで佑唯さん、その方は?」
「あ、白石さんて言うんです。不審者に絡まれたところを助けてくれました」
「そうなんですか、それは有り難い事です」
「・・・いえ。それより女の子を一人で歩かせるなんて、注意力が無さすぎよ?気をつけないと、また不審者に絡まれるわよ」
「・・・そうですね、努力します」
渉と佑唯は宿へ向かって歩いていった。二人の姿が見えなくなった頃、麻衣と玲香は並んで歩き、別の道を行っていた。
「あんた、また男にすぐ一目惚れしたの」
「だって、あんなイケメンいないじゃん」
「あまり信用しちゃダメよ、男は誰しも最後に悪い意味の“尻尾”を見せてくるもの。女が強くなきゃ、恋愛も何も上手くいかないわ」
「麻衣ったら、男の人が誰もがそうだって見方はよくないよ」
「男なんて信用ならないのよ。今の人もそう。こんな暗い道を、あの子一人で歩かせるなんておかしいわ」
麻衣と玲香の、渉の評価は真逆であった。明日も喫茶店でライブを終えた後、会うのだろうか。
玲香は渉に、口では説明の出来ない思いを抱いていた。