01
夜の1時を回る頃。まだまだネオンの煌めく大通り。深夜の仕事帰りの会社員や、これからが仕事という会社員もいる。
そんな人通りの多い通りには、時折ストリートパフォーマーがいる。
夢の為に真剣に、そして見てもらう為に。そんなストリートパフォーマーの中に、秀でて目立つ者がいた。
彼女は歌を歌っていた。しかも若い。歌声は響くが、その声を聴いてくれる者はほんのわずかな数だけ。一生懸命歌おうとも、拍手はぱちぱちと一人で鳴らせる数だけ。
また今日もダメか。荷物を片付け、帰り支度を整えたその時。
「失礼、お嬢さん」
「は、はい」
黒コート、黒ハット、黒サングラスの男に呼び止められた。
「とても素敵な歌でしたよ」
「え、あっ、あ、ありがとう、ございます!でも、まだまだです、自分なんか・・・」
「ご謙遜なさらずとも良いのです。自分もお世辞は言いませんので」
「いえ、ほんと、まだまだですから・・・」
「そうですか、では、またその歌声をご披露して頂けませんか?また、明日の夜にでも」
「明日ですか!?・・・・・・わ、わかりました。明日もここで歌ってます!」
「ありがとう、それでは楽しみにしていますよ、今泉佑唯さん」