うさぎ男 - case.2 今泉佑唯
09
次の日。約束の夕方5時に、渉は今泉佑唯のパフォーマンスをした場所へ着いた。
佑唯は先に着いており、渉に気付くと歩いて近づいてきた。暗さやパフォーマンスへの集中でよく見ていなかったが、彼女の見た目はとても若々しい。年齢はもしかして20歳未満なのか。
そうともとれる彼女に連れられて、渉はとある店に入った。そこは昨夜入った、佑唯が来るまで時間を潰した喫茶店だ。


「あの、白兎夜さん、実はお願いがあるんです」

「お願いですか、なんでしょう」

「白兎夜さんは旅をされていると、昨日話してくれましたよね。その目的は、探し物だと」

「ええ、探し物があります。それが何なのかは自分も分かりません」

「・・・私、白兎夜さんの旅に興味が湧いたんです。分からないものを探して旅する、まるで今の私みたいで、シンパシーを感じたんです」

「シンパシー・・・」

「私も同じなんです。こうやって、深夜に歌を歌ってますけど、それは昔からの夢だった歌手になりたいという目的があったんですが、それが最近わからなくなってしまって」

「わからない?それはどういう?」

「私が目指しているのは何なのか、それがわからないんです。だけど、いつまでも同じ事をやってるだけでは目的も目標も見失ってしまうと、そう考えました」

「・・・なるほど」

「だからそこでお願いをしたくて、今日はお呼びしました。聞いてくれますか」


「勿論、なんでしょう」


「・・・私も、白兎夜さんの旅に、同行させてくれませんか!」



佑唯の頼みは、渉の旅の同行。渉は近場だけではない。飛行機、船、電車など、歩いていける限界なんて、そんな安易な旅をしているわけではなかった。佑唯はそんな渉の旅路に同行する事で、新たな自分探しをしようと決意をしたのだ。



「しかし、よろしいのでしょうか。あなたの家族、友人はどうするつもりで?」

「・・・・・・秘密にします。一人暮らしはしてますから、帰ってこない事で怒られはしないはずですし、つい最近、仕事もやめたばかりですから、不都合な事はありません」


「となると、資金はこの先、あなたのストリートライブで稼ぐ以外無くなりますねぇ」

「いいんです。白兎夜さんにお会い出来たのは運命ですから。目的が分からないのに旅をするのって、面白そうですし。だからお願いします、旅に同行させてくれませんか!」


佑唯の目は本気で、言葉に迷いも無かった。渉は断ろうと思ったのだがやめた。自分は彼女の歌に惚れたのだ。それだけの歌声を持つ彼女ならどこだっていける。安易な考えながらも前向きに喜び、佑唯の手を取り返事を返した。



「行きますか、自分との旅」

「・・・!・・・はい!」




今泉佑唯と白兎夜渉。まさかの二人旅が始まった。

■筆者メッセージ
ずーみん編は終わりです。
結局、孕ませたのは美彩ちゃんという不思議なオチ。
しかもずーみんが旅に同行という謎の展開です。
果たして渉くんはこの先どのような旅をしていくのか。
次回をお楽しみにお願いします。
壮流 ( 2017/01/21(土) 01:23 )