04
未央奈も暗罪黒兎と共に逃亡した殺人鬼として、共に行動していると考えた警察は、祐唯を餌に使った。
その結果、未央奈はまんまと罠に嵌められてしまったが、ここで諦める未央奈ではなかった。
「一緒にきて、会わせてあげる」
「え、あっ!」
「待て!」
未央奈を追うが、この人混みでなかなか追いつく事ができない。だが、それは未央奈も同じ。
大きな百貨店の角に差し掛かると、ちょうど信号が赤に変わり、足が止まってしまった。だが信号を渡っても、その先には警察が。
逃げ場を失った未央奈は、祐唯に耳打ちすると、ナイフを取り出した。
「この子がどうなってもいいの?」
「なっ!」
「あんた達の目的は暗罪黒兎なんでしょ?私はどうでもいいんじゃなくて?」
「う、うるさい!殺人鬼“血女”ともあろう犯罪者が、うだうだ喋るな!」
「あら、随分と正義感の強い刑事さんね。でもその正義感が仇にならなければいいんだけどね?」
「な、何を言う!犯罪者は許されないのが普通だろ!」
「その正義感のせいで、この子が死んだらどうする気?」
「うっ!・・・」
「もういい、どけ」
刑事を押し退けて、未央奈の前に現れたのは、高橋警部だった。
「今泉祐唯さん、久しぶりだね」
「お、お久しぶり、です・・・」
「こんな形じゃ会いたくはなかったよね・・・。でも、僕は仕事をしなければいけないんだ。だから聞く。血女こと、堀未央奈さん、あなたに聞きたい事があります。暗罪黒兎は一緒じゃないんですか?」
「・・・ここにはいないわ」
「連絡はつきますか?」
「・・・つくわよ」
「・・・その言葉、信じていいんですね?」
「・・・分かったわ、呼び出してあげる。この子を解放するわ」
未央奈は祐唯を高橋警部に渡すと、翔に電話をした。
「もしもし?」
「未央奈さんですか?どうですか、守備は?」
「見つかったわ、今、目の前にいるわよ」
「!・・・本当ですか!?」
「ええ、今すぐ来て・・・・・・呼んだわよ、少し待ってもらえるかしら」
「わかりました。それまであなたに手は出さない事を約束しましょう」
警官に囲まれて逃げる事はできないが、高橋警部は手を出さない事を約束してくれた。祐唯に触る事もできる。
その間、高橋警部は警察と同じように祐唯を餌にして暗罪黒兎を殺そうとした裏社会の組織の名を洗いざらい、街中の警察に通達し、逮捕状もある事を伝えて警備隊も動かした。
未央奈、祐唯、高橋警部、熱血刑事、十数名の警官だけが残ったこの場所に、電話から10分ほど経ってようやく、彼はやってきた。
「これは、どういう状況ですか」
「この子を餌に、あなたを捕まえるつもりだったみたい」
「・・・まんまとやられましたね」
「どの道、この子と会う以上は警察に挑戦状を叩きつけるのと同じよ。あなたもわかってたでしょ?」
「・・・ええ、まあ」
未央奈に出会った男は、かつて旅をした白兎夜渉。間違いないと決めた祐唯は、大きな声で呼び掛けた。
「渉さん!」
「・・・ようやく、会えましたね、祐唯さん」
「私も会いたかったです・・・また渉さんと旅をしたかったです」
「自分も、祐唯さんの歌を聴きたかったです。あなたは、自分にとって生き甲斐になりましたから・・・」
「・・・そろそろ、お話はいいでしょうか」
高橋警部は翔に切り出した。
「彼女の両親からの通報でしたが、今泉祐唯誘拐事件について簡潔に」
「・・・」
「まず、この件は罪には問えませんね。証拠がありません」
「え、警部!なぜですか!暗罪黒兎がやったんですよ!?」
「・・・彼女と両親のメールのやり取りを見ましたが、彼女は毎日母親と連絡をとっています。誘拐ならばこんなに楽しそうな連絡をするはずはありませんからね」
「しかし警部!」
「・・・あなたが罪に問われるのは誘拐じゃない。強姦事件です」
白石麻衣への二度の強姦。それは逃げられない事はわかっていた。
「警部、しかし奴は暗罪黒兎です!存在が罪になるほどの大犯罪者なんですよ!?それを強姦のみで逃せと言うんですか!?」
「・・・うるさい、黙れ」
「・・・!」
「僕は、警察です。犯罪者は逮捕し治安を守るのが仕事です。ですが、あなたはなぜ、存在が罪に問われるなどと言われるのか、僕にはわかりません」
高橋警部は迷っていた。存在が罪に問われる人間なんているのか。
過去の犯罪も、すでに時効である。だがそれでも警視庁に命じられた、「暗罪黒兎は生きているだけで罪。殺してしまっても構わない」という命令を、高橋警部はずっと不思議に思っていた。
警察とは何なのか、と。
震える手をコートの内ポケットに入れると、そこから取り出したのは。
「・・・!」
「警部!」
「・・・そんな、高橋警部!」
「・・・僕は、警察の命令に従うつもりはない」
翔に拳銃を向けるが、高橋警部は躊躇っていた。正しい事は何なのか。それが手を震わせていた。
深呼吸をした後、高橋警部は翔に問いかけた。
「君は、何者なんだ?」