01
「あのう、橘隆治さんですか?」
ふと自らの名前を呼ぶ甘ったるい猫撫で声に、隆治は警戒して足を止める。
学園でよく見る着崩した制服とはあからさまに異なるロリータ服を纏う3人組を見ると、粗暴さがあまり感じられないと判断した彼は若干警戒を和らげた。
「君たちは?」
「わたくし、1年のみゃおと申します。こちらがらぶたん、こちらがまなまなです」
名を聞かれると素直にみゃおは自らを名乗り、傍らに居る2人についても紹介をする。
その2人も愛称を呼ばれるとにこりと笑って頭を下げた。
「それはどうもご丁寧に」
彼女らの丁寧な対応に釣られてか、隆治も困惑しながらも会釈をする。
悪くない印象を与えたことが喜ばしかったのか、山椒姉妹の3人は顔を見合わせて笑い合った。
「それで、単刀直入になるんですけど。つるむ相手間違っていると思いまして」
相変わらずにこやかな表情を浮かべてはいるものの、みゃおの発言する内容に違和感を抱いた隆治は半歩下がる。
「つるむ?別に誰ともつるんでないけど……」
「前田、つるんでますよね」
否定をしようとするものの、それよりも先にらぶたんが名前を挙げる。
彼女らの狙いが明確になってきたこともあり、隆治から油断の雰囲気は消えていた。
「クラスメイトなだけだよ、前田さんの舎弟って自称してる鬼塚さんに引っ張られることがよくあるだけ」
具体的に否定をすると、次の言葉を探るように3人は顔を見合わせる。
やがて名案が浮かんだのか、まなまなは指を組む仕草を見せながら一歩前に出た。
「実はわたくし達、シブヤさんに面倒を見てもらっていますの」
名前を出すこと避けようとしていたこともあり、まなまなからシブヤの名前が出ると後ろの2人は顔を見合わせる。
「シブヤさん?ラッパッパの?」
「あらあら、お勉強熱心なんですね」
隆治がシブヤの名前を復唱すると、これに食いついたと判断したのかまなまなはのんびりと告げてから後方の2人へと目配せする。
その合図を受けて好機と見たみゃおとらぶたんも前へと出た。
「だから、わたし達のお仲間になりませんか?シブヤさん、ラッパッパだけじゃなくてギャルサーのリーダーなので女の子、たくさんいますよ!」
「わたし達とも、楽しいこと出来るかもしれませんよ?」
みゃおの補足の後にらぶたんが悪戯っぽく告げると、山椒姉妹は黄色い声をあげる。
手応えを感じた3人は相手に視線を向けるものの、顔色1つ変えることなく隆治は彼女らのやりとりを眺めていた。
「ごめんね、興味ないや」
きっぱりと断り隆治が背中を見せると、3人は慌てて背後から彼の正面側へと回り込む。
呆れたように隆治が小さく息を吐いて顔を横に向けた瞬間だった。
「だからぁ!付く相手間違ってんだっての」
我慢の限界に達したのかみゃおは声を荒らげるようにして先程の指摘を改めて圧を込めながら繰り返す。
「こっちが下手に出てやったら調子に乗りやがってよ」
それに連鎖するように、まなまなも告げると隆治を強く睨み付ける。
2人が怒りをあからさまにしたために彼はらぶたんへと視線を移すと、彼女もまた不満げな表情を浮かべていた。
「ま、それもすぐに分かるか。またその時勧誘に来てやるからさ」
しかしながら怒鳴ることはせず、挑発するようにに告げるとみゃおとまなまなを宥めるように2人の肩へと手を置いた。
「それでは、ごきげんよう」
それで落ち着きを取り戻したのか3人は最終的にくすくすと笑い合う。
声を揃えて挨拶を口にすると、山椒姉妹は小走りで隆治の前から立ち去っていった。