04 幕間
隆治と零が交戦を始める少し前。
屋上にて学園の命運がかかる一戦が行われていることを誰も知らないまま卒業式が一段落し、優子は敦子に車椅子を押されながら体育館を後にする。
サドと四天王の面々も優子の後に続くように足を後に進めていたが体育館を出た直後、優子は車椅子を押す敦子に依頼をして四天王のメンバーとサドに向き直った。
「ゲキカラ」
1人1人に声をかけていく中、順が回ってきて優子から名前を呼ばれた玲奈はすぐに彼女のそばへと駆け寄り、膝を着いて目線を同じ高さへと動かす。
あまりにもその行動が早かったことがおかしかったのか、優子は目線を合わせている玲奈へと笑みを向けた。
「心配かけたなぁ。それに私がいない間やたら張り切ってくれてたそうじゃないか。ありがとうな」
「優子さんの場所を守るのは私の役目だから」
自身が容体を悪化させ、目を覚ましたのはつい最近のこと。
そのため学園内で何が起こっていたかを詳細に知ってはいなかったものの、ラッパッパが全員が敦子に敗れてもなお矢場久根の侵攻以来他校が大人しくしていたことだけは聞いていた優子は察していたように語りかける。
行ってきたことを評価されたのが余程嬉しかったのか、柔らかく笑う玲奈は得意気になってそれに答えた。
「ゲキカラ、理由のないケンカってのは痛いだけだ。感情を爆発させるのも良いけど、たまには譲れない何かを持ってケンカしてみろよ。楽しいぜ?」
常に感情のまま拳を振るっていた玲奈へと、優子は長きに渡り告げたかったことを口にする。
きっと以前ならばその内容について理解することは無かっただろう。
しかし彼女の側にいる人間の影響からか感情が豊かになっていることを実感する優子は、自身の言葉を理解してくれているだろうと信じ頷く相手を見つめていた。
「じゃあ私は優子さんのために、優子さんの守ってきた場所のために戦う」
「お前、ウザいな」
玲奈は迷うことなく抱いた信念について口にする。
あまりにも真っ直ぐな視線を向けて告げられたその言葉にこそばゆさを感じ、優子は笑いながら重ねていた視線を外した。
その言葉に嬉しさを感じた反面、自らに心酔することを拒否しなかった故に縛り付けてしまったことを悔いる。
「けど、お前にはまだ大切にしなきゃいけないのがあるだろ」
彼女には自分を越えた先を見て欲しいという願いを込め、優子は先程までの楽しげだった雰囲気を一変させて真剣に告げる。
目の前にいる相手に並ぶほど大切なものなんてない。
少し前であればそう即座に反論していた玲奈であったが、優子の言葉が何を示すのかをすぐに理解した彼女は深く頷いた。
「ただその学生のモラなんちゃら……ほら、アレだ」
「モラトリアムですか?」
もう1つ気がかりにしていたことを口にしようとするが、意図していた横文字が喉元から出てこない。
締まらないと感じながらも頭を悩ませていると、背後にいた敦子が助け舟を出した。
「それだ、モラトリアム。モラトリアム楽しむも良いけど、来年は卒業しろよ。ケンカもしばらくは休憩かもな」
「……はい」
優子と同じタイミングで卒業出来なかったことを玲奈は大きく後悔していた。
彼女を見送る今でもこの学園に残る意味について考えてはいたが、優子からの一声を受けて静かに返答する。
優子は玲奈の頭に軽く手を乗せるようにしてから、敦子に依頼し桜を見るべくその場から離れていく。
そのあとをサドとブラック、トリゴヤはついていくが、今までのやり取りで優子から離れる努力をしなければいけないと強く感じた玲奈の足は進まなかった。
「来年のラッパッパはどうなるんだろうな」
「大丈夫だよ、私がいるから」
優子の意図を汲みながらもついていかないことを心配してか、同じくその場に残ったシブヤは玲奈へと問いかける。
離れていく優子に目を向けたまま玲奈が出した回答は、落ち着きながらもどこか力強さを感じさせるものであった。
「そう聞くとお前がタブってくれて良かったよ」
いつもの荒々しさは鳴りを潜め、素直に会話を行う相手に頼りがいを抱いたシブヤは玲奈の肩を軽く叩いてから自身も優子の元へと向かおうとする。
それを見た玲奈も続こうとした矢先、自らの指に軽い痛みが走ったのを感じ取った。
「どうして……ふふ、ふふふっ」
痛みを感じたのは、彼から貰った指輪を着けていた場所。
指輪に目を落とした玲奈は、何かの宝石と思っていた場所に不自然な空洞ができていることに気付く。
何か薬を盛られたことを理解し、独り言のように呟いてから笑みを浮かべた玲奈はその場に力なく倒れた。
背後からのどさりという鈍い音が耳に入り、玲奈が倒れていることに気づくいたシブヤは慌てて彼女の元へと走る。
「おい、ゲキカラ!」
「何があった」
姿が無かった2人が気がかりとなっていたのかサドが体育館前まで戻ってくると、横になっている玲奈を受け止めて声をかけるシブヤの姿が目に入る。
周囲には野次馬が生じ始めていたが、それに目を向けることなくサドは駆け寄って現状についてシブヤへと尋ねた。
「急に倒れて。ゲキカラ、分かるか?」
あまりにも唐突な出来事にシブヤは小さく左右に首を振って取り乱したように答えると、支えている彼女へと声をかけ続けた。
無言で玲奈の身体の異変を探っていたサドは、暫くして彼女が着けていた指輪の違和感に気付く。
「気を失ってるだけだ。トリゴヤの時みたいにな」
先日似たような光景を偶然目にしていたことから、サドは玲奈の現状について大方の予想がつく。
何故卒業式当日なのか、感じていた自身の引け目についてけりをつけたのか。
彼女の側にいた男に向けていくつも尋ねるべき疑問が生じてはいたものの、それよりも優先すべき玲奈が無事であることにひとまず安堵するのだった。