01
自らの上官に任務への圧をかけられた後日、隆治の心中は穏やかではなかった。
最優先事項の発見。
該当のアルカナについて再度確認をするものの、学園内で圧倒的な実力とカリスマ性を持つ者の話は耳にしていない。
しかし姿を見せていない最強集団の部長であればどうだろうか。
そんなことを漠然と考えながら隆治が校舎内へと足を踏み入れた時だった。
「おい、橘」
聞き覚えのある声に足を止められる。
周囲を気にしながら隆治を呼び止めた学ランは彼へと歩み寄るがいつもの余裕そうな雰囲気はなく、その表情にはどこか苛立ちと焦りが表れていた。
明らかに異質であるものの、切羽詰まっていることがひしひしと伝わる相手に気圧され隆治は指摘するのを躊躇する。
「学ラン、聞いたよ。打倒四天王の応援に行ってくれたんでしょ。ありがとう」
「別に、礼を言われる筋合いはねえよ。敦子を守るのは俺の役目だ」
言葉を探す中でようやく見つけた礼を告げるものの、学ランはぶっきらぼうに返答する。
学ランの苛立ちが先日救援に訪れなかったことの可能性も考慮していたが、彼女の感情は隆治に向けられたものではなかった。
「それは良いんだ、先にお前を見つけれて助かったよ」
次の話題を探していた隆治であったが再び学ランが口を開くと、ようやくその表情に綻びが見える。
しかしながら彼女の言い回しにどこか違和感を覚えた隆治は困惑したように首を傾げた。
「先に?誰かが探してた?」
「違う、探されているのは俺だ」
敦子とシブヤの一件が落ち着いてから個人的に襲撃を受けることはほぼなくなったものの、ラッパッパへと啖呵を切った事の重大さを改めて思い出す。
だが危機が迫りつつあるのは隆治ではなく、自らであることを学ランは改めて説明した。
「何か気付かないか?この空気感」
学ランを誰かが追っていることを知り隆治も気にかけるように周囲を見渡すが、それらしき人物は見られなかった。
隆治は安堵しかけるものの、学ランからの言葉を聞き再び辺りを一瞥する。
普段は飛び交っている罵声が聞こえなければ、そこらじゅうで日常茶飯事に起きている小競り合いも見当たらない。
通常ならば簡単に気づいたであろう異変であったが、考え事をしていたこともあり隆治はこの違和感にようやく気付いた。
「静か過ぎるよ、今日の学園」
「昨晩、歌舞伎シスターズがやられた。血みどろの上にフェンスに吊し上げだ」
静けさから来る不気味さに隆治も警戒をしはじめると、学ランは相手が今の事態を把握したと判断し
、つい先程知り得た惨劇についての情報を共有する。
路地裏に歌舞伎シスターズの2人が意識を失うまで痛めつけられた上、近くにあったフェンスに腕を縛られ磔にされたというものだった。
それが行われた場所が敦子の通学路であったということからも、学ランは四天王の仕業であることを確信していた。
「そんな、誰が……」
今までとは比較にならないほどに滲み出る攻撃性に隆治は言葉を失う。
聞いた話では四天王のブラックにはだるま、歌舞伎シスターズ、そして学ランの3人で辛勝したとのことだった。
そんな中で現場が敦子の目に入る場所であること、被害者が打倒ラッパッパに手を貸していた人間であることから学ランが次に対象となることは明白であった。
「帰ってきたんだよ。奴が、ゲキカラが。普段小競り合いしてる奴らも絡まれるのにビビっておとなしくしてんだよ」
拳を強く握りながら、学ランは四天王の1人の名前を挙げる。
ラッパッパに逆らうものへの制裁としては行き過ぎた行動から、実行者を特定するのはそう難しくはなかった。
ゲキカラの名前を聞き、隆治はその人物と初めて遭遇した時のことを思い出す。
傘を使っての躊躇ない攻撃や、噛みつきといった喧嘩からは一線を越えた行動が彼女には見られた。
心中では早々の再会を望んでいたものの、最悪な状況で再会することとなり隆治は唇を噛んだ。
「俺に何かあったら、敦子を頼む」
「ゲキカラなら、俺が……」
相手が相手であるためか、学ランは後のことを彼へと託す。
探されるよりも自らが打って出ようとする強い意志がその言葉には含まれていた。
ゲキカラならば自身の能力が今でも機能している。
寸勁を放つ際に彼女に触れた自らの手に目を落としながら、隆治はゲキカラとの繋がりを思い返す。
先に対峙することを隆治は買って出ようとするが、その言葉を止めるように学ランは彼へと掌を向けた。
「ダチがやられて黙ってられねえんだよ。お前なら止められるとかなんとかそんな噂あるけどよ、お前は中立の立場にいなきゃなんだろ」
何者かにより広められたのか、隆治がゲキカラと対峙しほぼ無傷で生還したことを学ランは把握していた。
その上で自身が出向くことがお互いのためであることを説明しながら、彼女は隆治の説得に向けて言葉を続けていく。
「ま、軽く捻ってきてやるよ」
彼女の願望を理解したい想いと自らの今後の動きについて思考を巡らせていたためか、隆治は深刻そうな表情を浮かべる。
その表情に気付いた学ランは緊張を解こうと軽口のように告げると、隆治の肩を軽く2回叩いてから自らを探しているであろう相手の元へと向かった。