忌まわしき過去
本編
09
「あれ……。ここ、どこ?」
明日香は意識が混乱しており、ぼんやりとした目つきで周囲を見渡した。あかりが
懐中電灯ひとつだけなので小屋の中は薄暗いが、部屋の隅に何か白いもの
が転がっていた。

「それに、なんか鳴いてる……」
低くくぐもった声が、目を覚ましたときからずっと聞こえていた。

「明日香……うぅっ」
聡美は自分の口を押さえ、その場にうずくまった。

「もう、終わった……の」
いつも気が強い友人が泣き出してしまい、明日香は混乱した。

「聡美、なにがあったの?」
そのとき、明日香は下腹にうずくような痛みを感じた。下腹から太股にかけ
て、何か粘つくものが張り付いていて気持ちが悪い。

「あ……」
明日香は全てを思い出した。

「あ、やっ……やぁぁぁっ」
忌まわしい記憶を振り払おうとするかのように頭を激しく振り乱す。だが、
心と体に刻み込まれた醜い傷跡が、その程度のことで消えるわけがない。

「ぁぁぁ……ぁぁぁ」
泣きわめきながら明日香は気づいた。先ほどから聞こえる鳴き声は、部屋の隅
に全裸で放り出された貴子の泣き声だ。

「大丈夫。もう大丈夫なんだから」
聡美は震える声で、泣き出しそうになるのを必死でこらえながら言った。
服はあちこち破れ、埃と汗、そして精液にまみれてひどいありさまになって
いる。

「ごめん。ごめんね。私が近道しようとしたばっかりに」
聡美の目には、そのまま自身を押しつぶしてしまいそうな自責の念があった。

「ごめんね。……今、助けを呼んでくるからね」
体のあちこちが軋むが、痛みをこらえて立ち上がる。できることならこの場で
涙が涸れるまで泣きたいが、親友をこんな目に遭わせてしまった自分に
そんな泣く権利など無い。聡美はそう思っていた。

「ちょっと待ってて……」
一歩踏み出すと、聡美の足を伝わって白い粘液が床に落ちていった。その源
は、聡美の秘裂だった。

「っ!」
聡美はすさまじい形相になり、肌に傷が付くのも全く気にせず、手で己の股
間をぬぐった。

しかし、赤く腫れ上がり、ヒダが少しはみ出た秘裂からは、何人もの男の精
液が入り交じったものがとめどなくあふれ出ていた。
何度拭いても、何度拭いても、白い液の流れは止まらなかった。

「聡美」
明日香が声をかけると、聡美は哀れなほど引きつった顔を向けてきた。

「もう、かえろ?」
それは、子供に語りかけるような優しい口調だった。

「かえって、わすれちゃおう。もう、なにもかもおわったんだよ」
「……」

聡美は何かを言おうとして口を開いたが、何も言葉にできなかった。

「ねっ? ほら、貴子ちゃんも」
明日香はふらつきながらも立ち上がり、ブレザーも何もかも破り取られてし
まった後輩の肩に、自分の上着をかけた。

「かえろうよ。今ならまだ、最終電車にまにあうよ?」
陵辱の中でも、ずっと腕にはまったままだった腕時計を聡美に示す。

「ね?」
「っ……」
聡美は無言で明日香に抱きつき、声もなく泣きはじめた。

「おわったんだよ。おわったんだから……」
親友の背中を撫でてやりながら、明日香は自分に言い聞かせるように何度も繰
り返していた。

      ○

翌日、娘の様子に気づいた貴子の親からの通報により、強姦魔達を逮捕すべ
く警察が動き出した。
しかし数ヶ月経過しても手がかりひとつ見つからず、行きずりの、おそろし
く手慣れた常習犯だと推測された。

事件後3年たった現在、未だに犯人は捕まっていない。
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サイバーエクスタシー ( 2013/09/01(日) 09:46 )