もう一つの嘘
「予約した石橋です」
珍しく飛鳥が焼肉に誘ってきたのも、それほど危険な事件に取り組んでいるという意識の表れなのだろう。またいつか…が二度と来ないことだってこの仕事をしていればあるものだ。豊は案内された個室に入ると既に美月が座っていた。
「あ…お疲れ様です」
どことなくぎこちない挨拶。飛鳥と3人なら普通に出来ると思い、参加した美月だが先に個室で2人になってしまった。鼓動が大きく、どんどん早くなっていくのがわかる。
(顔に出ませんように…ていうか飛鳥さん遅いっ…!)
「どうする?飲み物だけ頼むか」
「あ、はい…私生ビールで…」
言い終えると下を向いて口をつむぐ美月。
店員を呼び、注文を終えると
「あの…ちょっと飛鳥さんに電話してきますね」
「ああ、わかった…」
席を立ち、外に出よ打とすると
「あ、山下さん?」
「な、なんでしょうか…?」
「いや、なんでもない…行ってらっしゃい」
「はい…」
そのまま外に出ていき、飛鳥に電話をかける。
「もしもし!飛鳥さんですか!今どこです?」
「今どこって…家だけど?」
「家って…今日3人で焼肉行くって飛鳥さんが言ったんですよ!?」
「あれ…そうだっけ…忘れてたぁ〜、てか、テーブルちゃんと見なかったの?」
「テーブル?」
「お箸とかタレのお皿とか」
「…………あ」
「ま、そういうことだから笑 頑張って〜笑」
「ちょっと!!飛鳥さん!!待ってくださ…もぉっ!」
電話を一方的に切られてプンスカしている美月だが、急に現実に戻りまた胸の高鳴りを感じていた。
「あの…飛鳥さんのことなんですけど」
「来ないんだろ?2人分の用意しかないし」
「気づいてたんですか…?」
「そりゃな、まぁ今日は2人で楽しめばいいよ笑 飛鳥につけとこうぜ笑」
「そうですね笑」
このあと、2人で飛鳥のツケ払いと勝手に決めて好きなお肉を注文しまくり楽しんだ。最初こそ硬くなり、緊張していたが話していくうちに徐々にほぐれていき、笑顔で溢れる楽しい2人のデートとなった。
「豊さんってこういう時仕事の話しないんですね笑」
「美月も悩み相談とかするかと思ったのに、全然しないのな笑」
いつの間にか呼び方も下の名前に変わり、急接近した2人。嵐の前の束の間の幸せなひと時なのであった。