4. 混乱
犯罪ソムリエ
過去の組織犯罪で黒幕が逮捕されなかった事件に必ず関わっている男がいる。
Mr.ゼロ、そのコードネームで呼ばれるその男は依頼を受けて数々の犯罪計画を立てて遂行したのにも関わらず、依頼者も本人も逮捕されたことが1度もないため裏の世界ではそう呼ばれている。Mr.ゼロはかの有名な暴力団、大和組の若頭であり、今時珍しく犯罪の依頼を受けて遂行することをシノギにしている男だ。赤井が身勝手な復讐を開始したのはこの男と出会ってからであった。

1年前 銀座 会員制BARのカウンター

「マスターいつもの」
慣れたように席につき注文し、はぁ…とため息を漏らす。しばらくすると赤井の元にスっとドライマティーニが差し出された。1口飲んだ赤井の表情はどうもパッとしなかった。
「隣、いいですか?」
そんな赤井の横に座ろうとする男が勿論Mr.ゼロ。店内は他にも空席があり、少し不自然である。
「どうして私の隣に?」
当然、疑問に思いそう尋ねる。
「浮かない顔をされていたので少々気になりまして、迷惑でしたら別の席に…」
「あぁ、いやどうぞ、話し相手が欲しくてここに来たので」
「そうですかでは遠慮なく、マスター同じのね…それで、どうされたんですか?」
「いやぁ…私はまぁそれなりに大きな会社を経営してましてね」
「ほぉ…それは素晴らしい」
「地位も名誉も金もそれなりに手に入れたつもりなんですが…何だかこう充実感がないんですよ」
「羨ましい悩みに聞こえますがね…奥様は?」
「結婚はしてないんです、私は女性が苦手なもんで」
ここでMr.ゼロが微かにニヤリと笑ったように見えた。
「それはまたどうして?」
その質問に対して赤井は過去のアイドルの話を洗いざらい話してしまう。
「…とそんなわけなんです、下らないでしょ?」
「いいえ、そんなことはありません…それに…女という生き物、特にルックスに富み自分の価値を理解している女は大概そんなものだと私も認識しておりますよ」
「そんなもんですかね…?」
「えぇ…」
これからMr.ゼロはでっち上げたいい女の悪い話をペラペラと話し始める。まるで実話であるかのように巧妙に、そして赤井の過去の怒りを呼び起こすために感情を込めて。
「なんて話だ!本当に狂っている!」
「私はそれでももう過去のことと割り切れるようになりました、復讐を果たしたからです、その女の名誉、尊厳を徹底的に傷つけて…ねぇ…えっとお名前は?」
「おっと、申し遅れました。こういう者です」
名刺を差し出す。
「赤井さんですね…赤井さん、貴方も復讐をしてみませんか?それをすることで、もしかしたら貴方は充実感を得られるかもしれませんよ?」
「うーん…」
「赤井さんの復讐はとても意義のあるものですよ、なぜなら、そういう女達に復讐することで…新たな赤井さんのような被害者を生むことを無くせるのですから…そして、私にお任せ頂ければ富と名声を守りながらその復讐を完遂させて見せますよ」
「………信じていいのか?」
「なるほど、信頼を得てからの依頼ということでも結構ですよ…では」
スっと席を立つMr.ゼロを呆然と見送る赤井。

数日後 銀座 会員制BARのカウンター

「あの事件…貴方がやったんですか!?」
店内に入るなりMr.ゼロを見つけるとズカズカと近づき驚いたように声をあげる赤井。
「ふふふ…今日はマスターに頼んで客は私と赤井さんだけにしてもらってますよ」
赤井が言ったあの事件というのは、マッチングアプリで自分が可愛いことをいいことに、無銭飲食をしては音信不通になっていた女子大生が、大学付近の電柱に全裸で縛りつけられて放置されていたというもの。
「し、しかし…誰にも見つからずなんて…どうやって…!」
「私はまだやったとは言っていませんよ、赤井さんが私を信用出来ないとお話したのと同様に、私もまだ赤井さんを信用はしてませんから」
「……復讐を…契約するよそのための用意は今日はちゃんとしている!」
赤井は持っていたスーツケースを開くとそこには現金で1000万が入っていた。
「ほう…では私が今から録音をします。内容に同意頂けるなら、声を出して返事をして下さい」
こうして、赤井とMr.ゼロの悪魔の契約が交わされた。最初の復讐は勿論赤井が当時応援していたアイドルがターゲットだったが、老け散らかしておりもはや元の目的の復讐にならないとして断念。そして、その代わりの矛先は坂之上46に向かっていくのであった。
また、この契約が交わされたことによって女子大生の事件の全貌がMr.ゼロの口から語られたのであった。

ブラッキー ( 2022/11/18(金) 03:49 )