1.警視庁捜査一課の3人
違和感
取調べ室

「貴方の犯行はどう見てもずさんなものだった。まぁ、そもそもが状況からも怨恨の滅多刺しの殺人だからそりゃそうなんだけど」
「なんだ?刑事が殺人のやり方にケチつけんのか?」
「滅多刺しにしたのは私怨ね」
「そうだよ!あの女、俺に気があるように見せてたのにいざ俺が告白したら振りやがった」
「妄想ね、勝手に気があると思い込んでただけでしょ?そんな理由で人の命を奪っていいわけないでしょ?…まぁいいわ、それで私怨で殺して物盗りまでした理由は何?」
「物盗り…?俺は殺しただけであの家の物は何もとっちゃいねえぞ」
「はぁ…嘘ついても無駄よ?大体、あんなに荒らし散らかして今更何言ってるの?」
「ホントだよ!大体俺は金に困っちゃいないし、そんなことをする理由はねえよ」
容疑者の挙動を注意深く観察するが、確かに嘘をついているようには見えない。
「信じていいの?」
「今更嘘なんかつかねえよ、そんなんで罪が重くなっても困るからな」
飛鳥はしばらく考え込む。
(じゃあ…あの現場はどう見てもおかしい…どういうこと…?)


犯行現場の一室

一方、現場の部屋に辿り着いた美月と豊。
現場は飛鳥が物盗りをしたと勘違いしてしまうのがわかるほど、酷く荒れ散らかされている。
「気になるところってなんですか?普通の強盗殺人の後にしか見えませんけど…」
「落ち着いてよく考えてみろ、犯人は被害者を滅多刺しにして殺している。どう考えても私怨だ、それはスマホのLINEの履歴からも一目瞭然だ」
「はい、犯人は容疑者に好意を抱いていてしつこく連絡をしていたため、ブロックされていました」
「その逆恨みの結果が滅多刺しという訳だ」
「はい…」
「犯人は殺しさえ成功すれば良かったんだ、じゃあなぜこんなに荒らしてまで金品を奪って逃走した?」
「それは…物盗りの犯行に見せるためでは?」
「確かにそういう考え方ある、だがそこまでして捕まりたくないのなら、そもそも滅多刺しはおかしい。その殺し方をしてしまえば物盗りの犯行と思わせるのには無理があるからな」
「確かに…」
「つまり、この事件には被害者を殺し現在拘留中の犯人が去った後にこの部屋に入り、盗みを働いたもう1人の犯人がいるということになる」
「なるほど…しかし、そうなると…」
「そうだ、普通は人が殺された部屋で強盗を働くバカはいない。余計な罪まで疑われる可能性もあるしリスクが大きすぎるからな」
「でも、もう1人の犯人はこの家で強盗を働いた…しかもこんなに荒らし散らかして…」
「つまり、この家からじゃないと盗めないものがあったということになる、金品を奪ったのは本当の目的を隠すためのフェイクだ」
「その本当の目的って一体…」
「それはまだ分からない、徹底的に捜索してそれを探ろう」
「了解しました」
その後、数時間にわたって捜索した2人だったが成果を得ることは出来なかった。

警視庁捜査一課室

「そっちはどうだった?飛鳥」
「嘘をついている様子は無い、てか、それが分かってたなら取調べさせる前に言ってよね」
「悪い、余計な先入観がない方が相手をよく見れると思ったんだよ」
「人を駒みたいに使うなし」
「まぁそう言うな、ゆっくり休めよお疲れさん」
後ろ向きで手を軽く上げてそう言いながら去っていく豊。
「そっちもね、お疲れ様」
そう言うと次は美月の方に目を向ける。
「どうだった?」
「どうだったって…うーん、金品が目的じゃないとすると何が目的だったんでしょうか…だって被害者ってアイドルのマネージャーですよね?カモフラージュまでして犯人が隠さなきゃいけないような何か特別なものを持っているとは思えませんけど…」
「そうじゃなくて!…豊と二人でどうだったって聞いてるの笑」
ニヤニヤしながら美月に笑いかける。
「え…!?いや、そんなどうって…」
目をパチクリとして唇をムッと閉じて明らかに動揺した顔を隠そうとしている。
「あれれ〜やっぱりビンゴだったかな?笑」
「ち、違います!変なこと言わないでくださいよ!」
「へぇ〜、いい収穫だったな〜笑 また、話聞かせてね、バイバーイ」
スキップで帰っていく飛鳥。
「話なんて今後もありません!…もう!」
不貞腐れながらも
(そんなに私分かりやすくしてるつもり無かったのにな…豊さんにもバレてるのかな…)
と不安になる美月だった。

ブラッキー ( 2022/11/13(日) 17:06 )