spice
男一人
1話
二週間前、平手魁人は私立乃木坂学園高校に転校してきた。今年女子校から共学になったこの高校に彼と同級の男子生徒はいなかった。
彼は二学年なのだ。学年の男子は彼一人だけで周りが女子ばかり。なんとも羨ましい世界。なんて言えるのは他人事だからで、いざ自分の事になってみるとあまり嬉しいものではないと魁人は思った。しかし人生で貴重な青春の二年間を日に当たらずもやしのように過ごすことになるなんて信じたくなかったし、なるつもりもなかった。

魁人が廊下の方を見るとたくさんの女子生徒が教室を覗いていた。転校初日から比べるとずっと減ったが、それでもあまりいい気はしなかった。上野動物園のパンダもこうなんだろうな。魁人はそう思うとスマホの画面に目を戻した。授業が終わった瞬間にに帰ってしまえば良かったと後悔している。
しかし、何者かに方を叩かれ、それを阻止された。彼はその振り向くと表情が固まった。

「げっ先輩」

三年生の橋本奈々未だ。奈々未はにやりと怪しげな笑みを浮かべている。魁人はこの二週間でこの人がどれだけ面倒な先輩なのか理解した。いや、それでもまだ入口程度なのかもしれない。

「げって何よ。まあいいや。平手くん会議あるから来て」

魁人は奈々未の細く白い手に腕を掴まれた。

「わかりましたよ」

魁人は渋々立ち上がる。奈々未は魁人の腕を掴んだまま廊下に群れる女子生徒達を掻き分けて部室に向かおうとしていた。

「先輩、そろそろ腕離してくれません?」

「なに、私に触られるの嫌?」

「そういうわけじゃないんですけど」

奈々未が魁人の方を見た。すると、髪が揺れ、シャンプーと、表現し難い甘い香りがふわりと香った。

「なら、このままでいいでしょ」

「誰かに見られたら恥ずかしいというか」

魁人が笑い混じりに言った言葉は流され、奈々未は歩き始めた。
本当は腕を離して欲しいなんて思っていなかった。学校でも、いや、おそらく、日本でも綺麗な部類に入る奈々未とこんなにも近い距離でいることができて魁人は幸せでたまらなかった。後付けするが、魁人が別に奈々未に女性として好きということではない。

転校初日、男子生徒が自分以外いないということを知り気が滅入りそうになっていた時、魁人は屋上で奈々未と出会った。とても綺麗な人だなと思い、近寄り難い気もしたが、話してみると意外と話しやすく、すぐに打ち解けることができた。

突然、奈々未は立ち止まって魁人の方を見た。

「あ、そうだ。ちょっと購買寄っていい?私お腹すいてんだよね」

「俺も少し喉乾いているんで全然いいですよ」

「気が合うね。よし、行こう」

奈々未はにっこりと微笑むとまた歩き始めた。魁人はどきりとしたが、奈々未がギュッと腕を握る力を強めたことがそれを遮った。

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■筆者メッセージ
みなさんお久しぶりです。ようやく勉学の方が落ち着いてきたのでぼちぼち書いていきたいなと思います。のでよろしくお願いします
夢月 ( 2016/09/26(月) 00:45 )