第6話
ゆりあと2人、生徒指導室に取り残された俺はとりあえずこの部屋から出ようと立ち上がったのだがどう頑張ってもドアが開かない。
よく見るとドアノブに鍵穴があった。恐らくこれは外側からは鍵なしでカギをかけられるが中からは鍵がないと開けれないという悪意のこもった仕掛けだろう。単に間違えただけかもしれないが。
「ゆ、ゆりあ。どうする?これ」
「んー壊す?」
コイツに聞いた俺が馬鹿だった。俺はゆりあよりちょっぴりいい頭で必死に打開策を考えたが1つとしていい案が思いつかなかったため結局ゆりあのドアを壊すで決定した。
「ゆりあ。もし怒られるんならお前もちゃんと怒られに来いよ?」
「えーなんでよ。翔ちゃん1人で怒られてきなよ」
「なんでだよお前も共犯者だろ。つか、なんで呼び方が翔ちゃんになってんだよ」
「んー?だってこっちのほうが呼びやすいじゃん?」
余計に誤解が広まりそうな気がしたが本人が気にしないなら良しとしよう。
も、もちろん俺は良くないのだが。
「呼び方なんてなんでもいいけど、とりあえずこのドア開けるぞ?」
「はーい」
ゆりあが返事すると同時に俺は軽く助走をつけて思いっきりドアに飛び蹴りをした。
・・・ビクともしない。それどころか音すらしない。なんたる防御力。
むしろ蹴った側の俺の方が痛かった。
「ゆ、ゆりあ。絶対開かないぞこれ・・・」
「あっはは、それでも全国行ったの?バカなの?」
「ちゃんと行ったわ!それにお前の方がバカだっただろ!そこまで言うならゆりあがやってみろ」
そう言うとゆりあは「・・・ん」とだけ言ってドアの方に歩いて行った。
少しドアと少しをあけて立ち止まったゆりあはいきなり足を後ろに引いたと思ったら勢いよくドアノブを蹴り上げた。
今度こそ大音量で破壊音がなると呆気なくドアは開いた。
ゆりあはスカートを翻しながらこっちを向いた。
「私ねー昔から蹴りだけは得意だったんだー」
笑いながらそう言うと何もなかったかのように生徒指導室から脱出していった。
俺たちが生徒指導室のドアを壊し脱出して教室に戻った時にはもう誰もいなかった。
入学式のあとは適当に終会をして解散だったはずなので誰もいないのは道理だ。
確か今日から部活動に入部できるので全員各部活動の活動場所へと向かったのだろう。
俺とゆりあは無言のまま帰り支度を済ませ部活に向かおうとしたときに思い出した。
ゆりあと同じ部活なのだということを。
部員とマネージャーという違いはあるけれども同じ部活ということには変わりはない。
そこまで考えたところで隣のゆりあが声をかけてきた。
「ねー翔ちゃん。まだ行かないの?早く行かないとさっきみたいにからかわれるよ?」
「お、おう。そうだな。んじゃ行こうぜ」
俺はまだ翔ちゃんと呼ばれることに慣れていないために少し戸惑ったがなんとか言葉は返せた。
ゆりあがなにかを思い出したような表情を作って言った。
「あ、そーだ。私、このあとちょいと用事があるから翔ちゃん先に行ってていーよ?」
「試験のときにカンニングしたのがバレたとか?まぁなんでもいいや。んじゃ先に行ってるわ」
「カ、カンニングなんてしないし!とりあえず先に行ってて!」
教室を出るなりゆりあに背中をおされたので俺はそれ以上は詮索せずにゆりあと別れ部活へと向かった。