御役御免
村に秋が訪れた。
村民、学校関係者と真夏、みくにも純一の子が宿った。
カマキリは子を成すと、メスにオスが殺される。
元々余所者な純一は、村を去ることにした。
しかし、夜中に脱出しようとするが、車の鍵が見つからない。
「純一さん。探し物はコレですか?」
そこには、車の鍵と置いてきた筈の結婚指輪、置き手紙を持った真夏が居た。
「私は、伊藤真夏。貴方の妻です。」
「パパ。」
玄関先に、みくも現れた。
「純一さん。村を出るなら、私を殺してください。」
そう言う真夏の掌中には普通の包丁があったが、その手は震えている。
「俺は、・・・。」
決心を固め、真夏の方へゆっくりと純一は歩き、包丁の柄に手をかけた。
◎
柏木先生達学校関係者が後に秋元の家へ足を入れたとき、彼等の息を感じることはなかったという。
春一番が吹いた頃、一つ目の産声が村に響いたが、その父親に抱かれることはなかった。