春
あの日、俺の背中に冷や汗が伝った。
「怜が、〇〇高校に合格しました!」
短くもハッキリした文が恵さん経由で俺のスマートフォンに届いたのだ。
〇〇高校、この高校は俺の赴任先である。
しかも、転任の話はきていない為、数十人の新入生の一人に怜ちゃんはなることになる。
そういえば、一年生を教えていたジジイが今年定年だったような、状況が悪すぎる。
〇
俺は二年生のクラス担任になった。
第一関門はなんとかなったが、第二関門はどうにもならなかった。
一年生に授業をしなければならない。
それだけではなく、怜ちゃんが教科係なのだ。
第一回の授業を教えに怜ちゃん達のクラスへ教えに行く。
「この一年、君達に日本史を教える松田です。先生には彼女がいるので、学園ドラマ等の影響を受けて、先生を口説かないように。」
怜ちゃんに対する注意でもあるが、同い年の子もそういう考えだと困るので、こう宣言しておく。
「義兄さん!」
声色と呼び方で誰が俺を読んでいるかは解っている。
「うぅん。上西さん。ここは高校。俺のことは先生と呼びなさい。」
「はーい。先生。」
「本題は?何かあるから、俺に声をかけたんだろ?」
「はい。先生のライン、教えてください。」
「それは去年も言ったぞ。生徒に教えるつもりはない。」
「お姉ちゃんと家族になっても?」
「そのときは身内として歓迎するよ。・・次の授業に遅れるぞ。」
こんなやり取りを何回も繰り返そうものなら、発見者がいて、密告者がいて、上司に怒られるのも時間の問題だった。
〇
そして、上司から呼び出されるときがやってきた。
「松田先生。一年B組の上西とはどういう関係だね?」
「生徒達にも宣言していますが、交際している彼女がいまして、その妹です。ほぼ義妹になります。スマートフォンの情報を見せても問題ありません。」
「なら、見せてもらおうか。」
こういうときが来ても良いように毎日確認を怠ってはいない。
「問題はないようだな。だが、在学中は決して生徒に手を出してはいけないぞ。」
「はい。」
この発言が水泡に帰すのは別の話。