帰還
その日は握手会、会場は福岡県。
開場早々に事件が発生した。
いつかの握手会同様にナイフを持った男が現れたのだ。
田中美久のレーンにて、男はナイフを振り回していた。
その場にいる人間に避難指示が出され、会場には男と警備員が残った。
それでも男はナイフを振り回すのを止めることはなかった。
一人の警備員、名札には菊池新之助と書かれた人が前に出る。
「もうすぐ警察が来る。武器を捨て、大人しくしろ。それで貴方の罪は軽くなる。」
「うるせぇー!」
男はナイフで警備員に切りかかった。
しかし、警備員はナイフをかわし、男に空手チョップをくらわせた。
男はそのときナイフを落とし、武器を失った男は出入口に向かって、逃げ出した。
そこに加藤正輝がやってきた。
「正輝!そいつを逃がすな。」
「了解!」
警備員の元に進士がやってきて、そっと耳打ちした。
「加藤さん。」
一仕事終えた正輝に進士はある物を投げた。
『丁寧に扱えよ!』
警備員と正輝は息の合ったツッコミを進士にした。
「お前ら何なんだ!?」
男は疑問を口にした。
「この紋所が目に入らぬか!」
正輝のその言葉と同時に警備員は帽子と名札を外す。
「こちらに御わすお方をどなたと心得る。恐れ多くも天神城副将軍大塚光圀公に在らせられるぞ!」
印籠を構える正輝の後ろにいるのは警備員の服装をした光圀だった。
「一同。光圀公の御前である。頭が高い。控えおろう!」
進士が警棒を構えたことで、水戸黄門のクライマックスそのものな情景が出来上がったが、男が土下座することはなかった。
「光圀公にひれ伏す必要はないが、我々なら話が変わるでしょう。警察だ!観念しろ!」
福岡県警がやってきて、事件は一件落着した。
「それでは光圀公御一行。事情聴取に御同行願いましょうか。」
「解りました。宮田警部。」
大塚家の隣人、宮田敬司こと宮田警部に光圀は敬礼すると、宮田警部は口角を上げ、後ろを振り向き、右手を上げて、サムズアップをした。
尾崎支配人との作戦で謹慎処分という形式的処分の中、しばらく握手会に別人の警備員として参加させられていた光圀。
見事、その作戦は成功したのであった。
握手会を騒がせた男はドラッグの陽性反応が出てきた為、どちらにしろ救いようがなかった。