出会い
大塚寿司
進士は初任給でカーネーションを購入して、施設を訪問した。

施設の人々に泣いて喜ばれたのは言うまでもない。

進士を人として成長させてくれた場所はもう一ヶ所。

それがアルバイト先であり、恩人の家である大塚寿司である。

「へい。らっしゃい。・・進士。」

「親父さん。女将さんは?」

「お袋のところだ。」

「何はともあれ、これを。」

「母の日か。なら、来月も来るか?」

「もちろんです。」

「おめぇ、昼は食ったのか?」

「お昼兼ねてですよ。」

「ちょっと待ってろ。俺だけでも何とかなるが、土産を奥に仕舞わせろ。」

進士だけが店先に居る状況の中、一人のサングラスをかけたお客さんが店内に入ってきた。

「すいません。大将は今、奥に。女将さんも席を外してまして、もう少々お待ちくださいまし。」

「おっ。今日は盆と正月が一辺に来たな。」

喜びの声を上げると、サングラスの人は人差し指を立てた。

「俺はただの寿司好きな客ですよ。大将。」

「ハハ。まぁ、お客さん二人。お席にお着きになって。」

サングラスの人物は光圀である。

光圀と銀次は一度、顔を合わせている為、下手な変装をしているのだ。

「親父さん。厚焼き。」

「大将。俺も厚焼き頂けますか?」

「へい。」

「大将。あのお客さんは誰だい?」

「去年まで家でバイトさせた子でして、何かありましたか?若。」

「否。金さんがこれを届けてくれって。」

「そいつはどうも。金さんによろしくお伝えください。」

「この厚焼き、旨いね。大将。」

「私なんて家を出て行った兄貴の足元にもおよびません。」

「お兄さんが何年前に出て行ったのかは知りませんが、大将は立派ですよ。」

「やっぱり今日は盆と正月だな。」

光圀の言葉を聞いて、銀次が泣き出し、店内は妙な空気になった。

「すいませんね。若、お客さんが兄貴に見えて、兄貴に認められたみたいで嬉しくて。」

「次、トロ握ってくれ。」

「へい。」

兄を目標とした大将とそんな大将を慕ってやってきた二人のお客さんはこの店のリピーターになったのだった。

■筆者メッセージ
金さん(お父さん)からのお届けものは早い話がお金です。
光圀さんがお寿司屋さんを訪れたのは東京での仕事のついでです。
光圀 ( 2019/06/28(金) 03:01 )