退院
今日は美音の退院の日である。
この病院の付近には高い建物はないが、ドローンやスナイパー等の影響で、病室のカーテンを閉め、美音は着替えを終えた。
何を思ってか、美音は薄化粧もして、それからカーテンを開けた。
美音が病室から出ると、そこには進士がいた。
「百田さん。」
「着替え等は終わったみたいですね。」
「どうして私が着替えているって解ったんですか?」
「僕が病院に着いたとき、病室のカーテンが閉まっていました。周りに高層建築はないのに女性がカーテンを閉めて、着替えるのが普通ではないかと。」
「もしかして、私の着替えを下から覗こうとしてました?」
「そんな考えの人間ならここで待たずにノックせずに入っていますよ。施錠もしていなかったなら、尚の事。」
美音の目にはきちんと進士の顔に汗が浮かび、耳で少し息が上がっているのが解ったので、進士をからかったのだ。
「百田さん。私のこと、守ってくださいね。」
「勿論です。この命に代えましても。」
「百田さん。ネクタイ曲がってますよ。身体を低くしてください。」
「はい。」
心臓の音が二つその場に聞こえそうな中、数秒の作業が行われた。
◎
ここは美音の退院に伴い、乗車したタクシーの中で、前に進士、後部座席に向井地親子という配置の中、美音は数秒に一度、進士を盗み見ていた。
タクシーは向井地宅の前にたどり着いた。
「百田さん。今日はありがとうございました。」
「何もなくて、良かったです。僕はこれで。」
別れを告げた進士が美音の視界からいなくなるのと同時に手が視界に入ってきた。
「美音。あなた、あの人のこと好きでしょ?」
「へ?何言っているの。お母さん。」
「タクシーの中であの人のこと、何回も見ていたけど。」
「百田さんが前にいるんだから、前を見ていただけだって。」
「昔から女の子が男の子を見るときは、その子の顔に何か付いているか、好きかって相場は決まっているのよ。」
「私が百田さんを・・・。」
この入院生活の中、美音の夢に顔がボヤけた男性が出てきたのも事実で、進士が来るのを楽しみにしていた部分もあり、美音の中で答えが出来てしまった。
「美音。新しい条文通りアイドルと恋愛両立させて、時期を判断して卒業して、私とお父さんに孫の顔を見せてね。」
母親の言葉の意味が解らない程、美音も子供じゃない為、美音はどうすべきかを考えだして、しばらく動けなくなってしまうのだった。