新生活
日曜日、俺は善は急げと軽トラックをレンタルし、部屋から寝具等、必要最低限のものを持ち出した。
由紀とマユちゃんの部屋を見て、ダブっているものは売ろうと思っていたが、炊飯器もトースターもなかったのだ。
「なぁ、由紀、マユちゃん。二人は今まで何を食べてきたの?」
「菓子パンとかスーパーのお惣菜とか・・・。」
「ママ。コンビニでご飯買ったのに食べなかった日もあったよ。」
話がつながっていっている。
由紀が子供を生んだはずなのに、昔と変わらない体型なのも、昨日の夜、レストランで新鮮なリアクションをするマユちゃんも、苦労の上であるということに。
俺が二人のお腹を満たそうと決意した。
◎
俺は今、久しぶりに緊張している。
小さい子を主な対象として料理を作っているからだ。
「おじちゃん、おはよう。」
「マユちゃん。おはよう。もう少しでご飯できるからね。」
少し焦げてしまったが、ハムエッグが完成した。
「はい。ハムエッグ定食お待たせ。」
気になるマユちゃんの反応はというと?
「おじちゃん。すごい!」
俺はホッと胸を撫で下ろすと共に不規則な生活の影響でまだ寝ているこの子の母親に呆れさせられた。
俺は由紀を放っといて、食事にすることにした。
「マユちゃんはハムエッグ食べたことある?」
「スキュランビュルエッグ?なら食べたことあるけど。」
スクランブルエッグ、由紀の料理の下手さを突き付けられているな。
「そっか。・・それじゃ、いただきます。」
「いただきます。・・美味しい。」
そう言うマユちゃんの口の周りにはソースが付着していた。
◎
俺はスーツ、マユちゃんは幼稚園の制服に身を包み、手を繋いで幼稚園に向かっている。
通園する道中、右側に大型犬を飼っている家があり、母娘揃って、犬が苦手で、俺が行き担当にされたのである。
その家が近付いたとき、マユちゃんが急ブレーキをかけた。つまり、足を止めたのである。
「マユちゃん。ワンちゃんが怖いかもしれないけど、今日からはおじちゃんが一緒だから、大丈夫だよ。」
「わかった。マユ、がんばる。」
この近辺の新入りである俺に反応したのか犬に吠えられたが、俺が人差し指を立てて、しーと言うと吠えなくなった。
そして、俺達は幼稚園にたどり着いた。
「なつみ先生。おはようございます。」
幼稚園の門には男子児童に胸を揉まれるコース直行タイプな先生が立っていた。
「麻友ちゃん。おはよう、今日は早いんだね。」
「私、マユのおじです。先生。よろしくお願いします。」
「・・はい。」
「それじゃ、マユちゃん。おじちゃん、お仕事行ってくるから。帰りはママが迎えにくるから、わかった?」
「はーい。」
「それじゃ、行ってきます。」
「おじちゃん。行ってらっしゃい。」
俺とマユちゃんの会話中、上の方で、
「おじっていうより、お父さんな気が」
という先生の呟きが駅へ向かう俺の耳に何回も響いていた。