キス
鹿児島県鹿児島市、俺が宿題をしていたときに、アイツはやってきた。
『ピンポーン』
家は両親共働きの為、今はこの家には俺しかいない。
『ピンポーン』
両親から宅急便が届くという類の話もない上に、この時間、放課後と言われるこの時間に来るのは、アイツしかいない。
ドアフォンと呼ばれるやつは使わない。
何故なら、だいたいアイツはドアの前に立っているからだ。
『ガチャッ』
「龍馬。遊びにきたよ。」
「あのな。由紀姉。人の家にほぼ毎日来て、飽きないのか?」
説明しよう。俺の目の前にいるのは、由紀姉こと、柏木由紀。俺の幼馴染でお隣さんで一個上のお姉さんだが、頭はよくなく、年下である俺が教科書を読みながら、教えさせられている。
「そんなこと言って、朝起こしてあげないよ。」
「それとこれとは話が別やろが。」
「ふーん。なら、あのことを学校中に言いふらしてあげようか?」
「どうぞ。上がってください。」
これがいつもの俺達のパターンだ。
何故、勉強をしているかって言えば、俺達のような田舎者が、福岡や東京といった都会に出るためには仕方がないのだ。
◎
玄関先でのやりとりから何時間経ったのだろうか?
由紀姉と一緒にいるときは時間の経過がいつもより早い気がする。
「ねぇ、龍馬。」
「なんだよ。由紀姉。」
「ずっと言おうと思っていたんだけど。」
由紀姉がこんな顔するの初めて見たんだが、まさか俺に告白する気じゃ。
いやいや、そんなわけないだろ。
「龍馬。顔にゴミ付いているよ。」
「へ?」
「まぶたの上に付いているから、私が取ってあげる。」
「あ、うん。」
こういうときに由紀姉に逆らえないのは年下の影響か。
『チュッ』
そんな音を聞いて俺は目を開けた。
俺の目の前には由紀姉のドアップの顔があった。
「由紀姉。今、何した?」
「龍馬にキス。」
「なんで?」
「私、ずっと前から龍馬が好きだから。」
「由紀姉。俺達まだ子供なんだから、こんなのおかしいよ。」
俺はうるさい心臓を誤魔化すようにそう言葉を言うしかできなかった。