出会い
この世に松戸研児という文字通りのマッドサイエンティストが居たのをご存知だろうか?
彼はクローン人間の実験に成功し、アイドル宮脇咲良を作りだし、彼女との情事の最中腹上死となり、動かなくなった主人へのせめても感謝の意を込めて、屋敷もろとも火を付け彼の物語は人知れず終わった。
しかし、彼が作った人形は一体だけではなかった。
それは一年前、クローン人間を作り出すことに成功していた。
材料は一年後のそれと同様、握手会の会場に落ちていた髪の毛だった。
髪の毛と人形がシンクロし、一人の少女へと姿を変えた。
研児はその少女を見て、舌打ちをした。
少女の名前は向井地美音。
研児の用意していた衣装は美音にはサイズが合わないのだ。
「初めまして。ご主人様。」
全裸の美音は研児の前に行き、ご丁寧に三つ指をついて挨拶をした。
「よし、美音。これを着なさい。」
「はい。美音のこと、たっぷり調教して、御主人様好みの奴隷にしてください。」
一年後の悲劇を知らない研児は従順な美音を、廃棄処分することにした。
美音にYシャツを着せ、口枷であるギャグボール、視界を奪うアイマスクを装着させ、リードと首輪を着け、地下室から連れ出した。
車で二つ隣の町の外れに美音を降ろし、リードを外し、笑いながら研児は言葉を紡ぐ。
「僕はこれから用事があるから、ここで大人しく待っていなさい。えい。・・そんな格好をしていたらホームレスに犯されるかもな。じゃあね。美音。」
研児は水鉄砲で美音の胸部と股間を濡らした。
目的は自身で言った通り、見ず知らずのホームレスに差し出す為だ。
しかし、水鉄砲による濡らしが水泡に帰す事態が発生した。
雨が降りだしたのである。
視界を覆われて、従順な美音は雨に濡れながら、待つしかない。
「君。どうしたの?」
雨が何かによって、遮られた。
当然、通行人の傘によるものだ。
その人物は美音のアイマスクとギャグボールを外した。
美音の拘束器具が外され、複合条件で、美音は意識を飛ばした。
「御主人様。」
無知な美音は研児に捨てられたと自覚しながら、見ず知らずの人の前で倒れるのだった。
降り続く雨が美音の頬から流れる涙を判別させることはなかった。
「あれ?ここは?」
三度目に美音が目を開けると白い天井が視界に入ってきた。
「気が付いた?」
「貴方は?」
「飯田聖也。散歩中に雨に濡れた君に出会った。」
柔和な笑顔を浮かべた男が半分心配そうに自身のことを見ている状況で、生きている音がその場に響きわたる。
「お粥と梅干ししかないけど食べる?」
「はい。」
美音は通行人、飯田聖也の手によって、助けられた。
これから新しい主人の元での奇抜な共同生活が始まった。