夫婦の章B
穴井の観察日記
穴井千尋という名前を聞いて、HKTの一期生、チームHの元祖キャプテン等様々な彼女のアイドルとしての活動を思い浮かべる人はいるだろう。

そんな彼女は、かつて共同生活を送ったマネージャー大塚光圀と劇場支配人を兼任する先輩指原莉乃について、密かに観察日記をつけていた。

一月○日。私と芽瑠ちゃんのお誕生会を兼ねて、あの人とさっしーと回転寿司に行った。

二人は端から見たらお似合いの男女、夫婦なんだよな。

四月○日。大塚さんに本を借りていた私は読み終えた本を返しに行った。

ただ、大塚さんは念仏を唱えているように、ぶつぶつと言っている。

「ご飯、否、飯。飲みに。食事・・・」

私には、多分はるっぴ達、大塚家で共同生活をしたことのあるメンバーなら分かるこの言葉の意味。

口説きたい、食事に誘いたい相手がいる。

まぁ、相手はさっしー以外ありえないんだけど。

五月○日。今度はさっしーがトイレで鏡に向かいながら、念仏を唱えていた。

「好き、大好き、愛している、アイラブユー、ウォーアイニー。・・・」

二人は両思いだとは思っていたけど、二人とも重症みたいだ。

大塚さんに関してはなんだか寝不足感が否めないのは、気のせいだろうか?

六月○日。大塚さんが倒れた。

「莉乃。」

さっしーのことを思いすぎて、恋煩いから寝不足に至って、倒れてしまったようだ。

私は、さっしーに電話を入れた。

「・・・もしもし?どうしたの。キャップ?」

「さっしー。大塚さんが倒れたの。○○病院に入院しているから、お見舞いに行ってあげて。」

私は、用件だけ言って電話を切ってしまった。

私と愛ちゃんと尾崎さんと数名のメンバーで大塚さんの様子を見にきたとき、一台のタクシーからさっしーが血相を変えて降りていた。

「あれって指原だよな?」

「え、えぇ。」

さっしーが面会に来たこの日、大塚さんの意識が戻った。

七月○日。大塚さんは入院生活が暇らしく、クロスワードとか勉強しているみたいだけど、私が面会に行った日に、大塚さんが留守で悪いと思いつつ、ノートを見てしまった。

『直接言葉にしては貴女への迷惑になる為、手紙を書いた無礼をお許しください。大塚光圀は世界中の誰よりも指原莉乃さん。貴女のことを愛しています。ただ、貴女は恋愛禁止という呪縛にある身、私は貴女の卒業という日まで、貴女を待ちたいと思います。』

似たような文面でさっしーへの思いが何ページも書かれていた。

「おい。穴井。お前、何見てるんだ。」

声を聞いて私ははっとした。

大塚さんがいつの間にか帰ってきていたのだ。

「ごめんなさい。ちょっと気になって。」

「俺はもう二度と愛する人と離れたくないんだ。」

二回も今生の別れを経験した大塚さんにとって、自分のせいでさっしーと離されるのは身を裂くようなものなんだよね。

八月○日。歌番組の空き時間、さっしーに私は気になって聞いてしまった。

「さっしー。大塚さんのこと、好き?」

「べ、別に。良い人だとは思っているけど・・・。」

耳が赤くなっているのを見て、私は確信した。

二人は両思いで、お互いの気持ちがどこかわかっているから、躊躇しているんだと。

もう、しばらく二人の様子を見ていようと思った。

■筆者メッセージ
莉乃ちゃんの面会日は九つの命の最後の話です。
穴井ちゃんの観察日記の古い頃を抜粋した形です。
アラサー(とし)と忘年会の幹事等でなかなか時間が取れなくて・・・。
光圀 ( 2017/12/26(火) 13:39 )