来訪者
光圀が出勤すると劇場の関係者出入口に挙動不審な男性が立って、中を覗こうとしていた。
「すみませんが、どちら様でしょうか?」
光圀はメンバーを守る為と思い、男性に声をかけた。
「大塚光圀さんという人がこちらで働いていると聞いたのですが・・・。」
「貴方のことを聞いたのですが(俺に用なら尚更だ。)」
「私は寿司職人。大塚銀次。恐らく光圀さんの叔父にあたる者です。」
「すみませんが身分証を見せていただけませんか?」
「はい。」
光圀の父親も本来寿司職人になるべき人だったが、母親とこの福岡に駈落ちした身、合点がいくが、腑に落ちない点が生じた。
「身分証をお返しします。大塚に会ってどうするつもりなのでしょうか?」
「父が、光圀さんの祖父にあたる人物が死にまして、兄に、金一にお線香だけでもと思いまして。」
「それは無理な相談だな。金一も光も死んだよ。」
「では、貴方が・・・。」
「大塚光圀だ。」
「でしたら、兄の代わりに・・・」
「断る。俺の肉親は金一と光だけ。それより上は存在しない!金一に代わって言う!俺は過去を捨てたんだ。帰ってくれ。」
「出て行く前の兄貴にそっくりだ。兄貴によろしく言って下さい。それじゃ。」
光圀の叔父は、階下へ降りていった。
「大塚君。休暇位与えるから行ってくれば良いんじゃないか?」
「尾崎さん。おはようございます。父と祖父の遺志を考えれば僕が向こうの家に行くのは駄目な話です。それに僕には家族がいますから。」
「分かった。」
(父さん、爺ちゃん。親子なんだから、天国で仲直りしているよな?)
光圀は今は亡き父と祖父を想っていた。