おままごと
楽屋に入った光圀をクラッカーとハイテンションなメンバーが襲った。
「大塚さん。お帰りー。彼女さんは?」
光圀は、驚きながら、大人としての対応に走ることにした。
「お前達、落ち着け。順番に話せ。」
「大塚さん。お帰りなさい。向こうでの話が聞きたいです。」
「あぁ、テストをさせられて、二回とも一番になった。海遊館で見たジンベエザメ、可愛かったな。」
「さしこちゃん、間違えた。彼女さんは?」
「リハビリ兼ねて一人で歩かせている。」
光圀が、楽屋でメンバーと談笑している間に、莉乃がやってきた。
「大塚先生。さしこちゃんと私とおままごとしませんか?」
「お、おままごと?」
「将来の練習になりますよ。」
おままごとを提案してきたのは、矢吹奈子である。
「指原さんが、捻挫しているからって身体を使わない遊びを提案するのは良いけど、古今東西ゲームとか、しりとりとか色々あるだろ?」
「それは大塚先生が出張中に一通りやっちゃって。」
「しょうがないな。」
光圀は、渋々おままごとに付き合ってあげることにした。
と言っても、奈子ちゃんは十五歳。中学三年生である。
「さしこちゃん。大塚先生と私とおままごとしよう?」
「しょうがないわね。」
莉乃のその様子は数秒前に見た光圀と同じリアクションだった。
「大塚先生がお父さんで、さしこちゃんがお母さんで、奈子が子供ね。よーい。スタート。」
今風なのか、光圀はスマートフォンをいじりだし、莉乃は料理を作っているしぐさをした。
「奈子。お父さん呼んできて。もうすぐご飯だって。」
「お父さん。もうすぐご飯だよ。」
「奈子。先行っておいてくれ。今日、結婚記念日だから。」
鼻の前で人差し指を立て、光圀はウィンクをし、バッグの中から実際にある物を取り出した。
「遅いわよ。」
「今日が何の日か忘れている、莉乃も酷いけど。プレゼントだ。」
そう言って光圀は、懐からボールペンを出した。
「これって?」
ジンベエザメが好きな人でなければほぼ迷惑なジンベエザメ型のボールペンが目の前に出てきた。
「尾びれの方が芯になっているボールペンだ。莉乃。・・・本物のプレゼントは今日届くようにしている。」
「そっか、この間の夫婦喧嘩のときに壊れたものね。」
二人は必死になって演技を続けた。
それを向かいから田中美久が撮っているのだった。