05
七月の風はとても生温かい。車の排気ガスに混じる風。手に持つアイスが早くも溶けはじめていた。
僕と白間さんは公園のベンチに座ってアイスを食べている。こうしてみれば、僕たちはカップルに見えるかもしれないなと思っていると、とても肌の白い女性が男性と腕を組んで歩いているのが見えた。
「不倫ね」
綺麗な人だなと思って見ていたら、横から鋭い声が聞こえた。
「まさか。恋人同士でしょ」
白間さんは一体何を言い出すことやら。僕は鼻を鳴らした。
「いや、違うわ。あれは不倫よ。その証拠に男の人は結婚指輪を身に着けているけど、女の人は身に着けていない」
仲睦まじく歩く二人の指元まで遠くてよく見えなかった。
「本当ですか? 単に女性の方は指輪を身に付けない主義なんじゃないですかね」
「そんなはずがないわ。耳元には小さなイヤリングが付いていたし、アクセサリーを身に着ける人間が結婚指輪を身に付けないわけがないのよ」
「断言しますね」
もう二人は米粒ほどの小ささになってしまっていたから、僕には白間さんが言うようなイヤリングを見つけることが出来なかった。
「あれは不倫よ。完全に」
「でも男の人はそこまでかっこよくなかったですよ。なんていうか、失礼ですけど女の人と釣り合っていないっていうか。小さいお子さんのいる、どこにでもいそうなお父さんっていう感じでした」
僕が言うと、隣から鼻を鳴らす音が聞こえた。
「確かに。女の人はすごく綺麗だったからね。でも、女っていうのは男が思っているほど見た目を重視していないのよ。そりゃあ若い頃はイケメン好きかもしれないけど、歳を重ねれば見た目なんて二の次、三の次ってなってくるものなのよね」
それが本当ならば、江籠さんはどうなんだろう。若いから、イケメン好きなのかもしれないと思うと胸が痛んだ。
「じゃあ、僕も年上の人には引く手数多じゃ」
「残念ながら最低限の清潔さと、何より“これ”が大事になってくるのよ。“これ”が」
横を見ると、白間さんは親指と人差し指で円を作っていた。間違いなく、お金のことを指しているのだろう。
「夢がないですよ」
「夢だけ見てたら生活が出来るなんて虫が良すぎるのよ」
「うーん。白間さんって、意外と現実主義者なんですね」
「女は皆そうよ。外面では理想主義者だけど、内面は現実主義で固められてるの」
「白間さんだけじゃないですか」
つい余計なことを言ってしまった。僕はいつ殴られてもいいように身構えた。
が、一向に白間さんが何かをして来ようとする気配はなかった。
「かもね」
その代わり、とても寂しそうな顔をしていた。