06
道端で女生徒に絡まれている男子生徒。傍から見れば、他愛のないお喋りをしているようにも見えるかもしれない。
よくよく彼女のことを見ると、なるほど、可愛い人だった。やたらと可愛らしい二十五歳の店員さんにも劣らないのではないだろうか。
クリッとした丸い目。江籠さんの雪のような白さの肌とは違う、健康そうな肌の色。そして何よりも――
「でも小嶋君がそんな無視をするような子には見えないんだけどなあ。忘れているだけなのかしら」
彼女が動くたび揺れる豊満な胸。江籠さんの胸は直接見たわけではないけど、大きくないのは服の上からでも分かった。
それなのに、この人は一体何を食べたらこんなにも大きな胸に育つのだろう。それとも、胸にパットでも詰めているのだろうか。
「ねえ、どう思う?」
「え? 何がですか」
おっぱい星人じゃない僕だけれど、さすがに童貞には刺激が強すぎた。これを生で見たらと思うと、僕は会話に集中することが出来なかった。
「もう。小嶋君のことよ。本当に渡してくれたんでしょうね」
「渡しましたよ。反応がないのは、知りませんって」
「小嶋君って、そういう子なの?」
「いや、違うと思います」
僕はキッパリと断言した。そうだ。小嶋君は決してそんな人間ではない。
「じゃあ、やっぱり渡してないんじゃないの」
「渡しましたって、マジで」
眉間に皺を寄せて僕に突っかかってくる彼女。今日は厄日だ。どうしてこんなにも見ず知らずの人に絡まれなくてはならないのだろう。
「君には分からないかもしれないけど、こっちは不安なんだよ? もしかしたら嫌われているのかなって、心配で夜も眠れないの。分かる? この気持ち」
「分かりますよ。分かりますけど、僕はちゃんと渡しました。反応がないのは、本人に訊かないと分かりません」
「じゃあ、小嶋君に連絡を取ってみてよ。同じクラスなんでしょ」
言われて僕はハッとした。小嶋君の連絡先を知らなかった。
「知らないです。小嶋君の連絡先は」
「はあ? 同じクラスなのに? もしかして同じクラスなのは嘘なんじゃない。あんたあたしをおちょくるなんて、いい度胸してるわね」
「そんな。おちょくってなんかいませんって。あと、同じクラスなのは本当です。嘘じゃありませんよ」
「じゃあどうして連絡先を知らないのよ」
彼女は僕の胸倉を掴んできそうな勢いだった。興奮した彼女の喋り方は、どことなくイントネーションが違う奈々未姉のようだ。
「それは僕がそんな小嶋君と仲が良いわけじゃないからです。僕だって小嶋君の連絡先は知りたいですよ。でも、まだまだ僕たちには壁が生じているんです!」
彼女の興奮が移ってしまったのか、僕は声を荒げていた。言い終えて、僕はハッとした。興奮に任せ、何を言っているのだ。
おかげで、彼女は黙った。口元に手を置いて。そして、ボソッと呟いた。
「え? 小嶋君と君って、そういう関係?」