第二章「真澄さんのアウトロー」
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 その夜僕は、真澄さんのことをデタラメに調べた。膨大な数の情報がインターネットの世界では毛細血管のように張り巡らされている。血は情報だった。
 調べている中で分かったことは、真澄さんはもう現役を引退しているが、高校時代とてもすごかったということだ。もちろん現役時代もすごいらしいが、それよりも高校時代を推す声が目立った。
 
 奈々未姉の言う、「外角のアウトロー」も動画で見た。白球がミットに吸い込まれていく。構えた所に正確へ投げることが僕にはどれだけすごいことなのか分からないけど、部屋の端に置いたゴミ箱目がけ、丸められたティッシュを投げるが、ティッシュは大きく目標を外れた。
 運動部でもない僕がこんなことをしても、意味がないと感じたのは、三回目でようやく成功をした時だ。ゴミ箱に入った達成感よりも、空虚感の方が大きかった。
 
 華やかなアマチュア時代。苦心と栄光と挫折。真澄さんのプロ野球生活は常に悩みとの戦いだったようだ。苦悩に満ちた競技人生は、きっと奈々未姉のように心を掴まれる人間がいるのだろう。
 真澄さんのことを調べたせいで、僕は無性に野球をやりたくなった。よくアニメやドラマで見る夕暮れのキャッチボールがしたくなったけど、もう外は真っ暗だ。おまけにグローブもない。
 
 何かないかと、僕は机の中を漁っていると、スーパーボールを見つけた。小さな黄色い球を地面に落とすと、僕の腰辺りまで跳ね返ってくる。
 僕はまた部屋の端に置かれたゴミ箱目がけ、スーパーボールを投げた。真澄さんのようなフォームから投げ出された白球ならぬ、黄球はゴミ箱に入るどころか大きくその上の壁を叩いた。
 
 真澄さんは投手でありながら、守備も上手かったらしい。ピッチャー返しの打球をものともせずに捕っていた。
 僕の真澄さんのモノマネはまだ続いていた。ゴミ箱から逸れ、トントンとバウンドするスーパーボールを捕ると、もう一度ゴミ箱へと投げた。
 今度は目標との距離が近かったため、黄球はゴミ箱の中へと入った。ナイスフィールディング。
 
 僕はまた空しくなって、ベッドへ横たわった。何がナイスフィールディングだ。野球選手でもないし、それを目指してなんかいないのに。
 全ては奈々未姉が言った言葉が原因だ。「惚れない女なんていない」と言われれば、期待をしてしまうではないか。
 
 調べている中で、僕は疑問に思ったことがある。
『外角のアウトロー』ってなんだろう。
 
 直訳すると、外角の外の低めということになる。そんなに外を強調しておきたいのか。
 もし、『外角低めのアウトロー』ならば、外角低めの外の低めということになるのだろうか。野球は元がアメリカで生まれたものだから、日本語と英語を混ぜなくてはならない決まりがあるのかもしれない。野球というのは奥が深い。
 
「真澄さんのアウトロー」
 
 頭の中でそれをイメージしながら僕は目を閉じた。


( 2015/10/04(日) 06:07 )