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どう告白しようか。それ以前にいつ、どのタイミングで呼び出そうかと悩みながら塾へ向かっていると、結局考えがまとまらないうちに塾へと着いてしまった。
生徒たちが次々建物の中へ入って行く。そうだ。ここは学ぶ場所なんだ。僕みたいに告白を考えている人間が行くような場所じゃないな。
やっぱり日が悪い。今日は休もう。そう思って帰ろうとした時だ。僕の前にキキーとブレーキ音をさせながら一台の自転車が止まった。
「やっほう」
江籠さんだった。細いフォルムの自転車から
颯爽と降りると、駐輪場へ向かった。
その瞬間だ。やっぱり告白したいと思ったのは。玉砕してもいい。この想いを伝えたくなった。なんでそう急に思い直したのか、自分でも分からない。あいさつをされ、江籠さんの気分がいいと踏んだからかもしれないし、チリのような可能性にかけたかったからかもしれない。
「入んないの?」
「ああ、入るよ。あの――」
建物の中へ入ろうとしていた江籠さんが、クルリと振り向く。それはまるで春の小川に咲く、一輪の華麗な花のようだった。そこだけ、柔らかな風が吹きつける。
「終わった後って、時間ある?」
「んー。ん、まあ、ある、かなあ」
急に言われて困ってるのか、江籠さんの言葉はハッキリとしなかった。
「ちょっとでいいから時間を頂戴。本当に少しでいいから」
僕は手を合わせて懇願した。
「いいよ。じゃあ、また後でね」
去り行く江籠さんの背中を見つめながら、僕は早くも心臓の高鳴りを押さえられないでいた。
◇
授業中も心臓が痛くなるほどの高鳴りを打っている。まともに江籠さんの顔なんて見れたものじゃない。黒板の上の壁にかけられた時計の針を見るたび、あと何分だとカウントダウンしている。
プランを考えなくては。告白のプラン。呼び出しには成功したのだ。あとは、どんな言葉で自分の想いを伝えるか、だけだ。
「好きだよ」
無難すぎる気がする。
「愛してるよ、ハニー」
どこぞのキザな欧米人だ。
「好きでごわす」
力士かよ。
「好いとうよ」
なんで博多弁?
「好きでござる」
拙者、武士ではござらん。
「好き好き好き好き、好き、好き」
どこかで聴いたことがある。何かのアニメの主題歌のはずだ。
僕はまともな告白の台詞すら考えられない人間なのか?
時間が経つほどに、僕は不甲斐ない自分自身への怒りが湧いてくる。頭を掻き毟りながら、必死に告白の言葉を探していると、無情にも授業終了を告げるチャイムの音が鳴り響いた。