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病室の空気が重たく感じる。会いたくて会いに来たのに。
呻吟しながら働いたというのに。すべてが水泡に帰してしまうのか。
「ちょっとお手洗いに行って来るね」
「あっ、うん」
矢神はこの空気に耐えかねたのか、病室から出て行く。その足取りは
蹌踉としたものであった。椎名は去り行く彼女の背中を見つめることが出来ず、ただ彼女が寝ていたベッドを見ていた。
「なにやってんだろ俺」
矢神が出て行って、椎名は
忸怩する。いくらストレスが溜まっていたからとはいえ、彼女に八つ当たりをしてしまうなんて。
彼は両の拳をギュッと握った。が、握力を無くした拳には、力が伝わることはなかった。
「久美さーん。入りますわよー。いいですよー」
と、その時、独り芝居のように木崎が病室に入って来た。あの時と同じ格好。パジャマを着て、足にはギブス、体を支えるようにして松葉杖をついている。
「あれ、哲也さん。来てたんですね」
「ん? あ、ああ。ちょうど今さっきね」
木崎は「そうなんですか」というと、ベッド脇にあるパイプ椅子に腰を下ろした。
「で、久美さんは?」
「トイレに行ったよ。もうすぐで戻って来ると思うけど」
「ふーん。……なんかあったようですね」