09
「お金がいるんですよ。急ぎで」
「急ぎねえ。借金か?」
「違いますって」
「俺なんて先週パチンコで大負けしちまって、また借金が膨らんじまったよ。兄ちゃんもそうならないように気を付けな」
男はそう言うと、ガハハと笑う。椎名は「はあ」と返事をすると、男はそのまま帰って行った。あの男は明日も来るのだろうか。椎名はそう考えると、気が重くなるのを感じた。
――彼女に会いたい。
帰宅した椎名は、入浴を済ませ、ベッドに寝転びながら天井を見つめている。時刻は十時になろうとしているところ。寝るのにはまだ早い。しかし、明日のことも考え、今夜は早く眠ろうと思った。体も乳酸が溜まり、動けないでいるのもある。
――明日行きたくないな。
仕事を入れたのは、金曜、土曜、日曜の三日間。大学の休みに合わせてだった。金曜日は講義があったが、休んだ。一回ぐらいならどうってことはない。あと二日――椎名は頭を振り、考えないようにした。もっと別のことを考えようと、枕元に置いてある雑誌を手にした。
――久美ちゃん、喜んでくれるかな。
髪を金色に染め、厚化粧を施した女性が表紙の雑誌。その雑誌には織り目が付けられ、ある商品に赤い丸印がしてある。お小遣いでは厳しい価格。だが、まったく手が届かないものではない。
椎名はこの商品を身に着けた彼女を想像した。頬を薄紅色に紅潮させた彼女。恥ずかしいのか、照れ笑いをしている彼女。目を潤ました彼女……。いつしか椎名の意識は途切れ、規則正しい寝息を立てていた。