07
「おーい、次はこれを運んでくれ」
「はい」
「兄ちゃん足元ふらついてるけど、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
雨に濡れた服が肌に貼り付く。汗をかいた分、不快指数はうなぎ上りで上がっていく。
椎名は引っ越し作業をしていた。早急にお金がいるため、登録した短期バイト。大したことはないだろうという椎名の思惑は、甘すぎたと痛感をした。重たい荷物に加え、階段上げにより、腕と足が悲鳴を上げている。
「休憩だ」
この言葉で、作業員は自動販売機に飲み物を買いに行った。椎名は軒先に座り込んだ。
「おい兄ちゃん。もっとテキパキと動いてくれなきゃ困るよ」
「すみません」
「ったくもう」
先ほど休憩を告げた男が睨むように椎名を見ると、舌打ちをしてその場から離れて行った。おそらく彼はこの現場のリーダーなのだろう。椎名とさほど変わらぬ身長だが、横幅は二倍近くある。歳は三十代後半に見えるが、今の椎名にとってはどうでもいいことだった。かすれた声で謝罪をすると、カバンから水筒を取り出し、一気に飲み干す。
「始めるぞ」
あの男の言葉で作業員たちが集まって来た。椎名はふらつきながら立つと、再び雨に打たれながら荷物を運び始めた。