03
高校と違い、毎日学校へ通わなくていい。椎名は授業のない日は、時間が許す限り矢神と過ごすようにしていた。彼女はそれをとても喜んでいるし、彼にとってもそれは気持ちが安らぐ至福の時だった。
このまま彼女との時間が永遠に続けばいいのに――そう思いながら、願いながらいるが、悲しいかな、無情にも時は刻一刻と過ぎ去っていってしまう。
「そろそろ時間だね」
「うん……もうそんな時間なんだね」
この時間が最も辛い。また明日も会えるし、いざとなれば彼女は病室を抜け出してくるだろう。それを頭では分かっている。分かっているのだが。
口は別れの言葉を吐き出さない。足は地面に貼り付いたかのように、動かない。こうして無言の時間を過ごしていると、どちらからともなく別れの言葉が出る。それが合図となり、二人の時が動き出す。いつもそう。毎日、毎日、そこだけが代わり映えのしないこと。
「じゃあ、そろそろお暇するよ」
「……うん。また明日も来てくれるよね?」
「当たり前だよ。……また明日」
「また明日ね……」
今日は椎名が別れの言葉を切り出すことが出来た。彼は後ろ髪を引かれる思いで彼女の病室を後にする。このまま名残惜しそうにしてはダメだ。スパッといかなくては。
「ふう」
「あれ? もしかして哲也さんですか?」
ドアにもたれ掛りながら溜め息を吐く椎名に、聞き覚えのある声が聞こえた。