01
寂びしそうな女の背中――華奢な矢神の背中を見ながら、椎名は彼女の後をついて歩く。空は燃えるように赤い。が、じきにその炎は鎮火し、夜の帳を下すことだろう。
「ねえ、そんな暗い顔してどうしちゃったの?」
「え?」
「せっかくの初デートだよ。そんな顔してたらダメだって」
クルリと回った矢神。ワンピースがふわりと揺れる。
確かに彼女の言うとおりだ。椎名は素直に思った。鏡がないので自分の顔を見ることは出来ないが、間違いなく自分は今暗い顔をしているだろう。
「ごめん。確かにそうだね」
「そうだよ、もう。では哲也君。彼女さんを楽しませてみなされ」
ビシッと椎名のことを指差す矢神。その目は悪戯に満ちている。まるで一休さんになったような気分だと椎名は思った。なんとかしてトンチを利かせなくては。
「うーん。あっ! そうだ」
「なになに? なんか思いついたの?」
考えること数秒。椎名の脳裏にあることが閃いた。これなら矢神も喜ぶに違いない。矢神の無茶振りに勝った椎名は勝ち誇った顔をする。
「
邪な笑い方ね」
彼の勝ち誇った顔は、どうやら矢神には不評のようだ。慌てて椎名は表情を引き締め、今度は爽やかに笑って見せる。
「写真だよ。ほら、まだ矢神さんと撮ったことがないからさ」