07
改めて椎名の顔をまじまじと見る。丸顔でくっきりとした二重。童顔だが、うっすらと無精ひげも見える。そう、彼は着実に大人へと階段を進めているのだと、矢神は感じた。未来――彼には未来がある。対して自分はどうか。余命が残り三年以内の自分は。矢神は自身に問いかけると、自然と頬に涙が伝っていくのを感じた。
「久美ちゃん……」
「ううん。なんでもないの。なんでもないから……」
心配そうに尋ねてくる椎名に、矢神は気丈に振る舞って見せようとした。が、涙声になってしまい、手で顔を覆った。せっかくの初デートだというのに、自分は何をしているのか。叱責をしても涙は止まってくれなかった。
「久美ちゃん。よく聞いて」
椎名は彼女の手を優しく握った。冷たい手を、椎名の温かな手が包む。そのまま手を下すと、泣き顔の矢神が見えた。椎名は心をギュッと鷲掴みにされる思いをしながら、言葉を紡ぐ。
「ぼ、ゴホン。“俺は”ずっと久美ちゃんを愛し続けるから。……たとえどんなことが起きようとも、どんな目に遭おうが、愛し続ける。この愛は不滅だよ。これは俺の誓い。返事は“また今度”聞かせてよ」
かっこ悪いな――椎名は言い切った後、そう思った。未だ慣れぬ一人称。つい気を抜くと「僕」と言ってしまう。
滔々と流れるように言えればかっこいいのに。椎名は頭をかいた。
「……いい加減“俺”って言うのに、慣れてよね」
「ごめん」
「バカ……」
矢神は泣きながら微笑むと、椎名の口に口付けをした。わずかばかりの生クリームの甘い味がした。