第七章「誓い」
06
「それよりも、哲也君。携帯貸して」
 
「どこか電話でもするの?」
 
「違うよ。こうするの」
 
 矢神は椎名から携帯を借りると、裏側に先ほど撮ったプリクラを貼った。彼女が最も気に入っている写真。手を繋ぎ、照れ笑いをしている椎名が特徴的なこの写真を、矢神はベタリと貼った。
 
「これでよしっ、と」
 
 満足そうに微笑む矢神。椎名に携帯を返した。
 
「“あの写真”じゃなくてよかったの?」
 
「もう。あれはダメに決まってるじゃんよ」
 
 あの写真――椎名が不意打ちで撮った写真は即座に却下された。今はその写真は矢神のカバンの中にある。おそらくもう見ることは出来ないだろう。
 
「こっちの方がいいでしょ」
 
「そうだね。久美ちゃんがかわいく映ってるよ」
 
「そんなお世辞を言ってもダメですー。これは浮気防止なんだからね。分かってよね」
 
「分かっていますとも。久美様」
 
 本当に分かっているのだろうか。矢神の脳裏にそんな言葉がよぎるが、彼を信じることにした。ふざけた態度をとってはいるが、それは私に気を許している証拠。そう自分に言い聞かせると、矢神の体に言い知れぬ愛おしさが込み上げてくる。優しくて、穏やかで、それでいて少しばかり切ないこの気持ち。矢神は前髪を軽く直すと、椎名と対面した。


( 2013/11/22(金) 03:42 )