02
椎名の言葉に、矢神はキョトンとした顔を見せていたが、次第に笑顔になっていった。「おおっ」と小さく感嘆すると、飛び跳ねる。
「いいね! うん。撮りに行こうよ」
矢神は椎名の手を引っ張り、歩き出す。その足取りはとても軽い。先ほどまでの
寂寥感は微塵も感じられなかった。
「早く。早く」
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
「そういえば、哲也君カメラなんてもってたっけ?」
軽やかな足取りで歩いていた彼女がいきなり止まり、椎名はつんのめる。なんとか転ばなくて済んだが、右肩が痛んだ。矢神が右手を持っていたせいだ。引っ張られた痛みに耐えながら椎名は答える。
「携帯でも撮れるけど、プリクラにしようと思ってるんだ。いいよね?」
「プリクラ? プリクラって、あのプリクラ?」
「そうだよ。他にプリクラなんてあるの」
椎名は一瞬、しまったと思った。これでは、彼女をバカにしたように見えてしまう。彼はバツの悪そうな顔で、矢神を見た。
彼女はそんな椎名の心配など微塵も感じさせない笑顔になっていた。まさに破顔一笑。椎名はホッとしたのと同時に、釣られて笑顔になる。
「行こう! 早く行こうよ!」
「ちょっと久美ちゃん。そんなに引っ張ったら痛いって」
矢神は椎名の右腕に抱きつくように腕を絡めると、走り出した。彼の言葉も無視し、「早く。早く」と引っ張り続ける。椎名は痛みに耐えながらも、確かな幸せをそこに感じていた。