第六章「初デート」
18
「そ、そんなに伸ばしてないと思うけどな」
 
「へえー。そうですか」
 
 動揺した声を出す椎名に対し、矢神の声はドスが効いている。先ほどまでの和やかな雰囲気はもうない。一触即発の空気が漂っている。
 
「そんなことよりも、お二方は付き合ってどのくらいですか?」
 
「え?」
 
「いや、ですからお二方はカップルさんですよね? 付き合ってどのくらいですか? 半年? それとも一年とか」
 
「あ、ああ。つい最近ですよ」
 
 そんな雰囲気を察したのか、木崎が質問をしてきた。助け舟――椎名はポカンとする矢神の代わりに、質問に答える。木崎の顔もほころんだ。
 
「そうなんですか。まだ初々しいんですね。どちらから告白されたんですか?」
 
「そ、それは……」
 
「哲也君からです。だよね?」
 
 今度は矢神が答える。告白したのは確かに自分だ。それを恥ずかしさから、堂々と言えない自分自身に、椎名は失望する。これでは、彼女がかわいそうだ。答えてくれた矢神の言葉に「そうだね」と自信を持って言う。
 
「羨ましいですね。こんな美男美女のカップルさんなんて。お似合いですよ」
 
「ありがとう。木崎さんは、彼氏はいないの?」
 
「ゆりあ、で構いませんよ。そうなんですよね。いないんですよ」
 
 いつの間にか矢神と木崎の距離が縮まっている。


( 2013/11/22(金) 03:30 )