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椎名の読みは当たっていた。こうなることを想定した上で、飲み物まで配慮したというのに。
彼は胸やけを起こしている。甘ったるいケーキを食べすぎたせいだ。想定したというのに、それを上回ってしまった。残してはいけないと思い、なんとかすべて食べきり、二杯目となったマンデリンを流し込む。
「こっちのやつも美味しいね」
矢神がニコニコしながら言う。その様子は、まさにご満悦といった様子だ。彼女が今飲んでいるのは、ダージリン。相変わらずミルクと砂糖を入れた、甘ったるい紅茶を美味しそうに飲んでいる。
「満足しましたか?」
「うむ。余は大満足じゃ」
カッカッカと笑う矢神。飽きない相手――椎名がそう感じるのは、初めてのことだった。以前の彼女にすら抱いたことのない気持ち。矢神となら、何時間でも、何日でも、何年でも居られる――。そう思えてならない。もっとも、彼女の余命は、他の人から比べ、格段と短いのだが。
「ん? なに、これ?」
「どうかしたの?」
「ほら、これ。……キャア!」
店内に響き渡る矢神の悲鳴。椎名は思わず耳を塞いだ。
「どうかしました? って、キャアー!」
悲鳴を聞いて駆け付けた木崎だったが、矢神同様、悲鳴を上げる。聞き慣れぬソプラノ声での悲鳴に、椎名は委縮し、頭の中はパニックに陥ってしまう。
「哲也君! 早く“コレ”なんとかして!」