第六章「初デート」
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「ごちそうさまでした」
 
「やっぱり男の子だね。全部食べちゃうなんて」
 
「そう? 久美ちゃんが小食過ぎるだけだと思うけどな」
 
 食べ終わった食器を端に寄せ、椎名は水を飲む。矢神の分まで食べた椎名だが、まだお腹には余裕がある。人よりも大食いというわけではないが、年相応の胃をしている彼にとって、矢神が小食に見えるのはごく自然なことだ。
 
「じゃあケーキを注文しよう。何がいい?」
 
 椎名は矢神にメニューを渡す。子供のような笑顔を見せる矢神。どうやらケーキが入る分だけは残していたようだ。メニューと睨めっこする矢神を、椎名は微笑みを浮かべたまま見つめる。
 
「どう? 決まった?」
 
「うーん。どれにしよう」
 
「好きなのを選びなよ」
 
「そうは言ってもねえ」
 
 椎名は苦笑する。本当に今の彼女は子供のようだと。無理もない。病院通いが多かった彼女にとって、こういったお店には行ったことがあまりないのだろう。椎名は木崎を呼んだ。
 
「え? 私まだ決めてないよ」
 
「いいから」
 
「ご注文はなんでしょう?」
 
「ここに載っているケーキを全部一つずつください」


( 2013/11/22(金) 03:24 )