17
――小木曽視点――
久美ちゃんの表情はまさに、臨終を迎えようかの人に似たものだった。もちろん彼女の気持ちも分かる。これまで苦しんできたのだ。もうそれが終わる。
宿痾に翻弄され続けた人生が……。
だが残された身にもなってほしい。ようやく縮まった距離。不格好だったが、私たちにある大きな壁は取り払われたというのに。
「久美ちゃん……」
「小木ちゃん。いいんだよ。私はこれでよかったんだ」
小木ちゃん――看護師として『ちゃん付け』はいかがなものかと思っていたが、それもいつしか消え失せ、本当の姉妹のような関係になっていた。その関係はもっと長く続くはずだと思っていたのに。病気を
寛解し、一緒に遊び周れると信じていたのだ。
私はそれ以上かける言葉が見つからなかった――。己の不甲斐なさに情けなくなり、一時はウツ状態にまで陥りそうになった。だけど、それもいつしか癒え、彼女の最後を見届けようと思えるようになったのだ。
「待ってってね、久美ちゃん。椎名君」
彼女の余命をだしに使うようで気が引けるが、そんなことを気にしていられない。看護師という立場から大きく逸脱した行為を何度も続けている私だが、今回もまたそれをやろうとしている。すべては二人のため。
突然現れた久美ちゃんの彼氏。ちょっとばかり頼りないところもあるようだが、とても優しそうだ。お似合い二人。だとするのであれば、私はさしずめ愛のキューピットか。
「やったるッス」
ドアの前に立ち、気合を入れ直すとドクターがいる部屋のドアを勢いよく開けた。