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「泣き虫だよね、私って」
「うん? そんなことはないと思うけど」
「哲也君と出会ってから、こうなっちゃったみたいだね。責任とってよね」
うっすらと目を充血させながら矢神は言う。憑き物が取れたかのように、その顔はスッキリとしている。涙はどうやら、それまで彼女が背負っていた負の感情をも流してくれたようだ。椎名は安堵の表情を浮かべながら「うん」と返事をする。
「やったね。あーあ、初デート楽しみだな」
「どこに行きたい? 矢神さんの好きなところでいいよ」
「あんまり遠出は出来ないし……あっ! 前に言ってたケーキ屋さんに行ってみたい」
前回訪問した際、椎名が言ったケーキ屋。矢神はそれを覚えており、そこをリクエストしてきた。
「いいよ。他にはないの?」
「あるんだけど、ない。私……ぜんぜん遊ぶ場所とか知らないし」
あるのだけれど、ない――矢神にとって、行きたい場所は多々ある。だが、彼女は行き方を知らなければ、どういった場所なのかも分からない。漠然としているのだ。
「そっか。……そうだよね。ごめん」
「私ったらまた……。こんなことばかり言ってたら、嫌われちゃうね」
「そんなことはないよ! 僕が矢神さんを嫌うわけないよ」
椎名は必死で矢神を説得する。彼女はまだ脆いようだ。