08
「小木曽さんがいい人でよかったね」
「うん。でも前はあんな人じゃなかったんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。まあ、私がダメ人間だったっていうのもあるけどね……」
小木曽が出て行った病室には、椎名と矢神の二人だけになった。椎名は少しずつではあるが、矢神のことを知れる喜びを味わう。以前は質問をされっぱなしで、彼の疑問にまともには答えてくれなかった彼女。今は答えてくれるようになったことで、互いの距離感がさらに縮まっていく。
「また……そんな自分を卑下しちゃダメだって。矢神さんはダメ人間なんかじゃないよ」
「ううん。“あの頃”の私は本当にダメ人間だったから。いくら哲也君が何を言おうが、それは変わらない事実だよ」
“あの頃”――椎名はもちろん彼女の過去を知らない。彼女に卑下してもらいたくないものの、過去を知らない彼にとって、それ以上何も言えなくなってしまう。黙っていたら、矢神が口を開いた。
「……きっと小木ちゃんからしてみれば、覇気のない子。無気力な子に見えたんだろうね」
「そんなことないって。まあ、仮にそうだったとして、今はこんなに仲がいいじゃん。矢神さんだって明るくなったし」
「明るく? ふふ。私は明るくなんかなってないよ。ただ……ただ死を受け入れただけだから」
自嘲したように言い放つ矢神の言葉に、椎名は
悄然する。掴んだと思ったら離される。まだまだ椎名は矢神の心を完全に掴むことはできていないようだ。