第四章「看護師」
05
「じゃあ、そろそろ面会時間も終わるし、帰るね」
 
「うん。今日は来てくれてありがとう」
 
 椎名は後ろ髪を引かれる思いで、矢神の病室を後にする。
 結局、重苦しい雰囲気を拭い去ることはできなかった。椎名は病室のドアに頭をつけ、自責の念にかられている。
 
「どうしたんですか?」
 
 その時、椎名に話しかける女性がいた。彼は慌ててドアから離れ、声を発した女性の方を向く。
 
 女性はどうやら看護師のようだ。白衣を身に纏った小柄な女性。やや女性にしてはハスキーな声をしているが、とても可愛らしい。椎名はわずかばかり彼女に見とれてしまった。が、自分には矢神がいながら彼女に見とれるとは何事だと、自身に活を入れる。無難に「いえ、特には」と言い、この場を切り抜けようとする。
 
「久美ちゃんのお知り合い?」
 
「いや、まあ。そうです」
 
「え? 本当に?」
 
 看護師はグイッと椎名に近づきながら確かめてきた。椎名は彼女と付き合っていますとは言えなかったため、知り合いということにしたが、まずかったのだろうか?
 
「本当です」
 
「そっか。久美ちゃんにお友達がいたんだね。うん。うん……」
 
 そう言った瞬間、看護師の瞳から涙が零れ落ちてきた。慌てる椎名。どうして彼女が泣くのか。その理由を全く知らない椎名を尻目に、看護師はおいおいと泣き続けている。


( 2013/11/17(日) 01:52 )