第三章「告白」
09
「本当だよ」
 
「本当に本当?」
 
「本当だって。僕は……僕は矢神久美さんのことが好きです。僕と付き合ってください!」
 
 きっと何度も確認をするのは、彼女が不安なせいだろう――椎名は矢神の心情を察し、優しく、語りかけるように言った。最後にダメ押しするかのように言い切ると、矢神の瞳から涙が零れ落ちてくる。
 
「矢神さん……」
 
 椎名は、差していた傘を閉じ、彼女の肩に手をかけた。華奢な肩は小刻みに震えている。彼は一瞬躊躇(ためら)ったが、思い切って矢神を自身の胸元まで抱き寄せた。彼女もそれを受け入れ、椎名の胸元が彼女の流した涙で濡れる。
 
「返事はOKってことでいいのかな?」
 
 椎名の問いかけに矢神はウンウンと頷く。告白が成功し、安堵の表情を浮かべる椎名は、矢神の頭を撫でた。サラサラした髪の毛が手のひらを刺激し、シャンプーの匂いが鼻腔から伝わる。
 
「あれ? 雨、上がったのかな?」
 
 椎名の言葉に矢神は顔を上げた。いつの間にか雨は止んだようだ。矢神は差していた傘を閉じると、空を見上げた。釣られるように、椎名も空を見上げる。上空は雲がかかっているものの、雲の切れ間から月が垣間見れた。
 
「止んだみたいだね」
 
 矢神の言葉に、椎名は「ウン」と返事をしながら頷く。視線を空から胸元にいる矢神に向けて、言葉を放つ。
 
「僕たち……幸せになろうね――」


( 2013/11/17(日) 01:40 )