08
「そんな目で見つめないで……」
矢神は俯いてしまう。初めての告白――幼い頃から病院通いをしていた彼女でも、恋愛を夢見ていた。人を好きになることも、人から告白されることも妄想をしてきた。それが今、現実に起こっているのだ。妄想の世界だけだと思って、諦めてきたことが――。
「矢神さん。答えを聞かせて。答え次第によっては、キッパリ諦めるから」
「哲也君……」
椎名は二択を出した。自分を受け入れるか、否かと――。
彼自身、矢神を受け入れた。彼女の病気を知ってなお、受け入れたのだ。今度は矢神の番。彼女は果たして椎名を受け入れるのだろうか?
「ちょっと待ってくれない?」
「ゴメン、矢神さん。待てないんだ。……この場で答えを聞かせて」
矢神は困った顔をする。時間を置こうと考えていた彼女の考えに、椎名は否定をした。どうしても今決めたいようだ。矢神は頬をかいたあと、ゆっくりと顔を上げた。
「……本当に私でもいいの?」
不安でいっぱいの表情をする矢神。その顔は、椎名が抱いていた
飄々とした彼女からは想像もつかないほどのものだった。まるで小さい子供が道に迷ったかのような顔。助けを求めているかのようだ。
「いいというか、矢神さんじゃなきゃイヤなんだ」
「本当に?」
キッパリと言い放つ椎名。彼に迷いは
微塵も感じられない。ただひたすら彼女に自分の気持ちが届けと、胸中で祈り続けている。対して矢神は、未だ疑っているようだ。眉宇を下げたまま、椎名の言葉を確かめる。